日本労働社会学会『通信』19期3号(2007年4月)




日本労働社会学会事務局(第19期)
静岡大学情報学部 笹原恵(ささはらめぐみ)
学会HP: http://www.jals.jp/


★会費納入★恐れ入りますが学会費の納入は、現金書留ではなく、下記の口座までお願いします。
【郵便振替口座】口座番号: 00150-1-85076  加入者名: 日本労働社会学会
【銀行振込口座】三菱東京UFJ銀行 浜田山出張所
口座番号: 普通預金 0411742  口座名: 日本労働社会学会 榎本環
◆ 年会費 学生・院生会員→6000円 / 一般会員→10000円


 新年度になり、早くも1週間が過ぎましたが、みなさま、いかがお過ごしでしょう か。昨年12月に開催された関西地区での研究例会の報告と、3月に行われた幹事会報 告をお届けいたします。
 なお先頃、『労働社会学研究』8号(通称、ジャーナル)が刊行され、皆様のお手 元に届いている頃かと思いますが、もしお手元に届いていらっしゃらない会員の方が いらっしゃいましたら、事務局までご一報ください 。また会費徴収や名簿の訂正などのため、事務局・ 会計担当では、現在、皆様の御住所・メールアドレスなどについて調査中です。近い うちに個人情報に関するアンケートなどお問い合わせをいたしますので、どうぞご協 力ください。またご住所やメールアドレス、ご所属などに変更があった方はぜひ事務 局までご一報ください。
よろしくお願いいたします(事務局)

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今年度の幹事会・研究例会予定  今後の日程:
 今年度の幹事会・研究例会予定 2007年7月7日(土)/ 9月8日(土)
 第19回大会:2007年10月27日(土)〜28日(日) 北海道情報大学

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

目次
   1 第10回関西労働社会学研究会報告  吉田秀和
   (1) 「地域通貨と市民運動」 中里裕美 
   (2)中里裕美氏報告「地域通貨と市民労働」へのコメント  小松史朗
   (3)<仕事と協同>の社会理論のために −仕事のリアルを奪うもの−v                                      三浦耕吉郎     
      (4)三浦耕吉郎氏報告「<仕事と協同>の社会理論のために
     ―仕事のリアルを奪うもの―」へのコメント      四本幸夫
                                          2 3月3日幹事会報告
   3 会費納入など会計担当幹事からのお知らせ
   4 「奨励賞」推薦のお願い
   5 会員の移動
   6 ジャーナル原稿募集(再送)
   7 7月の研究例会報告募集

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

1  第10回関西労働社会学研究会報告(2006年12月24日)

関西地区担当 吉田秀和

 第10回関西労働社会学研究会を以下のように行いました。
<日時>2006年12月24日(日) 午後1時〜6時
<会場>佛教大学 11号館 2階会議室
<報告>「地域通貨と市民運動」 中里裕美 
「<仕事と協同>の社会理論のために −仕事のリアルを奪うもの− 」三浦耕吉郎


当日は、代表幹事の藤田栄史先生をはじめ、辻勝次先生、高橋伸一先生など10名ほど がご参加くださり、盛況な研究会となりました。 中里報告「地域通貨と市民運動」も三浦報告「<仕事と共同>の社会理論のために」 も労働におけるリアリティとその評価に関するテーマを持ち、その分析に対する評価 と今後のあり方について展開されていたと思います。
 中里報告は、近年報告されている地域通貨活動の分析とその評価に係わり、当該社 会調査データの妥当性について検証するとともに、地域通貨によるフォーマル/イン フォーマルな労働が果たしうる役割を再考したものでありました。
 三浦報告は、報告者の言葉を借りれば"仕事をどう捉えるか?"がテーマであり、SSM職業威信調査などでは把握しきれない労働者の職へのアンビバレントな感情を< 仕事と協同>という枠組みで掬い上げることで「職業のリアル」の分析可能性を呈示 したものでありました。
 なお、この研究会での報告者を募集していますので、関心のあるかたは高橋伸一 もしくは吉田秀和ま でご連絡ください。(次回の研究会は2007年6月ごろを予定しています。)

 

(1) 「地域通貨と市民運動」

中里裕美(立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程・日本学術振興会特別研究員)

   P2P(Peer to Peer:個対個)型地域通貨は、古くから失業対策や雇用創出の手段 として認知されており、実際にその面でいくつかの成果を挙げてきた。また財・サー ビスの提供というかたちで行われるインフォーマルな労働は、従事する人々のエンプ ロイアビリティを高める等することで間接的にも雇用に結びつく。さらに財・サービ スの提供というインフォーマルな労働は、それ自体が地域に眠る労働力の有効利用で あり、また男性・正規労働者中心の既存の労働市場に異を唱え、オルタナティブな働 き方を提案するというヴェクトルをもつ。地域通貨活動がフォーマルな労働・雇用の 領域に貢献する能力について、またインフォーマルな労働を掘り起こし、価値を与え る機能について、近年とくに英国において、いくつかの調査研究が行われてきた (Lee, 1996; Williams,1996a,1996b; Williams et al, 2001a; Seyfang, 2001; Aldridge et al, 2001; Thorne, 1996; North, 1999)。彼らの調査結果は質問紙調査 とインタビュー調査、また時には取引記録の分析に基づいており、そのスタンスは LETSの規模、取引状況などが理想的な状態には遠いことを認め、現状に苦言を呈しな がらも部分的な結果から地域通貨のもつ労働・雇用への効果の可能性自体は評価する というものである。以下の(1)〜(3)に、彼らの評価をごく簡単にまとめる。(1) まずフォーマルな労働市場における雇用創出の効果にかんしては、地域通貨の経済規 模は小さく、また地域通貨組織自体も雇用の受け皿にはならないため、ほとんど直接 的な効果はない。(2)次にフォーマルな労働市場への間接的な効果にかんしては、 財・サービスの提供というかたちで行われるインフォーマルな労働がa.提供者のエン プロイアビリティ(Employability:雇用される能力)を高める、b.自営のベンチ ャービジネスを立ち上げるための苗床になる、c.(失業者にはふつう不足している) ソーシャル・サポート・ネットワークを作る、ことに役立つため、ある程度の効果が 認められる。(3)最後にインフォーマルな労働そのものがもつ意味(潜在的労働力の 活用、既存の労働市場へのアンチテーゼ)にかんしては、社会的弱者層、とくに失業 者が積極的に地域通貨を利用し、また彼らが(1).有償労働者以外の人々が労働に従事 する方法として、(2).(非正規労働によって)断片化した労働を管理する方法とし て、(3).労働を自分の意思でコントロールする方法として、(4).有償労働の伝統的構 成への挑戦として、(5).技能を再評価する方法として、地域通貨取引に参加している ことから、高く評価される。
 だが、彼らの分析の進め方と論旨の展開には往々にして飛躍がみられる。例えば Williamsら(2001a)では、質問紙調査への回答者(N=810)中27%が「LETSへの参加に よって自己確証が高まった」と答え、さらにその割合が失業者の場合には33%に高まる ことを根拠にLETSの取引には失業者の自己確証を高める効果があり、そのはたらきが 翻って彼らのエンプロイアビリティを高めると論じられている。しかし彼は33%という 割合でそう判断することの根拠を示していないし、27%と33%の間の差が意味のあるも のなのかどうかも述べられない。また、そもそも地域通貨運動、とくに近年の先進諸 国におけるそれは思想的な中立性を保っておらず、したがってその回答の中立性にも 疑問が残る。
 本報告では、限定的ながらより実態を反映した分析結果を提示することによってこ れまで与えられてきた評価に再考を促し、またその実状を改善もしくはより良くする ための道筋を示す。おそらく、地域通貨にかんする社会調査のデータで最も客観的な ものは取引記録や思想的なバイアスの入り込む余地がない(例えばフェースシートな ど)質問項目への回答結果であると考えられる。本報告ではとくに取引記録の分析に 主眼を置く。なぜなら取引記録は統計解析が可能であるのみならず、記録から得られ る誰が誰に財・サービスを提供したかという取引「関係」の情報を社会ネットワーク 分析することによって、さらなる知見が得られるからである。なお、調査対象はスト ックホルムの「BYTS」と兵庫県旧村岡町の「1むらおか」である。
 分析の結果、先行研究における評価である(1)〜(3)に対して、それぞれ以下の ようにまとめられる。まず(1)に対して、地域通貨の経済的規模は小さく、したがっ て雇用創出の効果は低い。次に(2)に対して、まとまった量のインフォーマルな労働 に従事しているのは一部の者だけであり、したがってエンプロイアビリティの向上等 の間接的な効果にも疑問が呈される、最後に(3)に対して、一部の者のみが集中的に 取引に参加している現状から、高くは評価できない。先行研究における評価は、集中 的にインフォーマルな労働に従事している一部の者を対象に下した評価を一般化して しまったものと考えられる。P2P型地域通貨は確かに理論上有効なツールではあるが、 少なくとも現代社会における労働・雇用の問題の領域に貢献するためには、実際に「使われる」ツールに改良されること でより広範な人々の参加を促し、取引規模を拡大する必要があると結論づけられる。

 

(2) 中里裕美氏報告「地域通貨と市民労働」へのコメント

     

小松史朗(立命館大学非常勤講師)

 本報告では、「地域通貨(の取引)=インフォーマルな労働」として捉え、その 「インフォーマルな労働としての取引の実態」と「フォーマルな雇用・労働」への間 接的な効果についての検証をおこなっている。そして、ここでは、標準的な地域通貨 として研究者間で認知されているLETS(Local Exchange Trading System)を対象とし たWilliams、Aldridgeらの先行研究をもとに上記の研究課題の論点を整理した上で、 ストックホルムの地域通貨であるBYTS(Bytesring Stockholm)と日本の兵庫県村岡町 の地域通貨「むらおか」を分析対象として論点の実証的検証を行うという研究方法を とる。
 まず、Williamsは、地域通貨の機能について「フォーマルな労働市場」に対して直 接的にはほとんど影響を及ぼさないとしつつも、(1)労働主体のエンプロイアビリティ の向上、(2)労働主体による起業の促進、(3)ソーシャルサポート・ネットワークの形成と いう三点において有効性を持ちうると整理する。一方、Aldridgeは、LETSにおける 「インフォーマルな労働」に期待する役割として、(4)非正規労働者への社会的労働の 場の提供、(5)非正規労働によって断片化した労働の管理手段、(6)自律的労働の促進手 段、(7)伝統的な正規労働への挑戦手段、(8)技能再評価の方法を挙げる。さらに、 Northらは、地域通貨を「現代社会における労働/雇用に挑むというベクトルをもつ」 「オルタナティブへの志向」もあることに言及する。
 こうした論点を踏まえて、報告者は、BYTSと「むらおか」を事例として、インフ ォーマルな労働としての地域通貨取引の実態については、誰がどのように使っている のか、また値のつけ方は既存の社会的諸関係の影響を受けているのかについて、フ ォーマルな労働への間接的な効果としての「エンプロイアビリティの向上」と「ソー シャルサポート・ネットワークの形成」についての検証をおこなっている。
こうした検証の結果、総じて先行研究との整合性に欠ける傾向が見いだされた。BYTS を事例とした先行研究によれば、地域通貨を運営するスタッフのような一部の者(思 想性が強く、それゆえ財・サービスを頻繁に提供して地域通貨運動に理解を示す)へ の調査結果を一般化したものと考えられる。
 しかしながら、地域通貨がエンプロイアビリティの向上やソーシャルサポート・ネッ トワークの形成における可能性が否定されたと結論づけることはできない。近年、 「むらおか」に見られるように、日本でもインフォーマルな労働への需要が高まる中 で、地域通貨がこれらの点で多いに機能する可能性があるとも言えよう。
 報告者のこうした分析を踏まえて、評者は以下のようなコメントを付したい。報告 者は、上記のような実証研究の結果を踏まえて、地域通貨の目的と可能性について再 検討する必要があるといえよう。報告者の検討を踏まえて推論すれば、地域通貨と は、介護、家事や環境保全活動などといった「フォーマルな労働市場」からは半ば放 逐された労働を特定の地域内の「顔が見える関係」の中で「互酬」し合うのに適した 交換媒体といえるのではないだろうか。
 そうだとすれば、地域通貨を「フォーマルな労働市場」の補完媒体として捉えてし まうと、その役割の限定性ばかりが強調されることになろう。むしろ、地域通貨は、その地域的通用限定性は免れないものの、貨幣収入が乏しい地 方住民による介護、看護、家事労働などの「互酬」や自然環境保全のための取り組み のサポート手段などといった、国民通貨を媒介手段とした「フォーマルな労働市場」 から放逐された生活者と彼らの労働を媒介する手段としての意義が強調されるべきで はないだろうか。そして、特定の地域通貨の「地域」を越えたユニバーサルな通用可 能性を追求するよりも、利用者間の「顔が見える関係」が維持される範囲の各地域単 位で地域通貨が自然発生的に出現し運用されていくことこそが、その本来の意義が発 揮される姿なのではないだろうか。私見ではあるが、報告者には、こうした論点を踏 まえたさらなる研究を期待したい。
 しかしながら、本報告は、市場取引に翻弄される国民通貨に対して市民の「互酬」 を促す媒体としての地域通貨の意義と実態について、豊富な先行研究レビューと調査 にもとづいて詳細に検討した極めて意義深い研究であるといえよう。また、報告者の 研究は、グローバリゼーションのなかで新自由主義が世界を跋扈する昨今、市場から 放逐された地域住民による「反逆」の可能性を探ることにもつながるのではないだろうか。
                                                                               

(3)<仕事と協同>の社会理論のために −仕事のリアルを奪うもの−

三浦 耕吉郎(関西学院大学)

1.<仕事と協同>というテーマ
 <仕事>研究は、今日、社会学の領域で奇妙な真空地帯を形成している。産業社会学・労働社会学・職業社会学等々はこれまで、なぜか仕事自体を研究対象とはしてこ なかった。その理由は各々が、仕事と人間、仕事と組織、仕事と社会の関係を、一定 の抽象的水準において考察してきたことと無関係ではなかろう。しかしそのために、 社会学研究から仕事についてのリアルなイメージが失われてしまったのも否めない。 では、仕事をリアルにイメージするとは、いったいどのようなことなのだろうか。じつは、そのための社会理論を新たに構築するのが本報告の目的である。つぎに、<協 同>とは、辞書に「力を合わせること」とあるように、人と人とのあらゆる協力的(= 非協力的・反協力的)関係を網羅するための概念であり、「協働」よりはるかに広い意味をもち、「依存」「支援」「排除」「支配」などの関係性を含むものである。<仕事と 協同>という問題構成によって、私たちは、<仕事>というものを、従来の「職業」や 「労働」といった抽象的な枠組みのなかから掬いだし、多様な社会関係が交錯する<日 常性の場>という白日のもとに晒すことで、改めてリアルに考察することが可能になると考える。
2.「仕事」を隠蔽するメカニズム
(1)<屠る>という仕事の現場から
 仕事についてのリアルなイメージが奪われてしまっている事例のうちもっとも典型 的なものは、<屠る>という仕事において見てとれよう。なぜなら、牛や豚の解体作 業の現場にかんする情報は、日本社会では、長きにわたって社会的タブーとなってい たからである。これまで私たちは、いくつかの屠場で見学や聞き取りによる調査をお こなってきたが、その結果から、そうした屠場で働く人びとのなかには、みずからの 仕事にたいするアンビバレントな感情を抱えている人のあることがわかってきた。そ れは、一方で、社会の役に立っているという誇りと、他方で、動物を殺したり解体す ることへの社会から寄せられる偏見とのあいだのアンビバレンスであったり、あるい は、現実に動物の血液や汚物を浴びることにたいする忌避感といった実感レベルとのあいだのアンビバレンスであったりした。 (2)職業にかんする格付け調査が生みだすもの
 SSM調査に従事してきた歴代の研究者は、外部からの「誤解」を直感的に感じと ってきた。しかしそれは本当に、たんなる「誤解」なのだろうか? じつは、職業を 格付けする質問の設定の仕方それ自体のなかに、根本的な問題が孕まれていると言わ ざるをえない。それは、個々の職業が本来的にもっている両面価値的な性格を捨象し ている点である。そもそも、あらゆる職業は、その両面価値的性質を、社会的次元と アイデンティティ次元という二次元において、つねに身にまとっているものである。 すなわち、職業評定とは、理論的にいって、社会的な高低とアイデンティティ面での 高低からなる四通りの価値評価を混在させた状態としてしか客観化できないはずであ る。ところが、そのための設問は、第1には、社会的次元とアイデンティティ次元の 区別を放棄することによって、そして第2には、職業の両面価値的性質という特性を 捨象することによって、ある種の(偏った)職業階層イメージを(社会学的に)構築 してしまっていたと言わざるをえない。そしてさらに、詳しく検討してみると、SS M調査における職業にたいする格付けの内実とは、研究者が、みずからの類型化され た職業序列イメージにもとづきながら、人びとによって類型化された職業の威信を調 査した結果にほかならないことがわかってきた。このような職業観は、社会学におけ る「仕事」研究の不在の結果なのか、それとも原因なのか?
  (3)<サラリーマン(ホワイトカラー)>という仕事の内実
 職業社会学における仕事と生活をめぐるリアルな社会記述(ソシオグラフィ)は、 もっぱら伝統社会を対象としたとき成功していた(尾高「海南島黎族の生業と労働」 「海口市少史街の手工業者」「出雲のたたら吹き」を参照)。そして、高度産業社会 におけるホワイトカラーの仕事の変質こそが、仕事研究からの撤退という職業社会学 のジレンマを導いたといっても、それほど間違いではないだろう。その変質とは、と りあえず、職業のなかで「仕事」よりも「勤め先」や「地位」の方が大きな意味をも つようになったこととして言い表せる。しかし、その結果としてもたらされた現代の ホワイトカラー・公務員における仕事内容や職業倫理についての社会学的認識および 批判的検討の欠如こそが、企業や行政における社会問題化した諸々の不祥事を生みだ す背景にあったといえるのではないか。
3.<仕事と協同>の社会理論へむけて
 2において指摘した3つの局面は、相互に無関係に存立しているように見えるかも 知れない。しかしながら、それらは私たちから「仕事」についてのリアルなイメージ を奪い去るという一点において、互いに補完的な関係性のもとにあったのではないだ ろうか。それは、第1に、仕事に孕まれている両面価値的な側面を捨象し、一面的な 職業評価を流通させることによって。第2には、ホワイトカラー(サラリーマンない し公務員)の仕事の内容についての研究を類型化的な把握にとどめることによって、 実際の職務内容につきまとうマイナスの側面や問題点を看過させ、ひいては、ホワイ トカラーにたいする職業的に高い評価を維持することに貢献した点において。そし て、こうした「仕事」の具体的内容についての幾重にも渡る隠蔽という事実が、結果 として、私たちから仕事のリアルを奪ったのではなかったか。

 

(4) 三浦耕吉郎先生の研究発表「<仕事と協同>の社会理論のために
―仕事のリアルを奪うもの―」へのコメント

立命館大学非常勤講師 四本幸夫

 以前、私は日本社会学会の産業・労働セクションで発表した事があるが、私以外は 統計学などを使った量的調査法による非常に抽象的な発表であり、場違いな所に来た ものだと違和感を感じた経験がある。今回の三浦先生の発表は質的調査法を用いて研究する私にとって非常に興味深いものであった。
 私は労働社会学、産業社会学、職業社会学等に関して専門ではないし、日本で社会 学の訓練を受けてきたわけではないので、日本の社会学会で仕事研究が真空地帯を形 成しており、仕事自体を研究対象とはしてこなかったという評価に対してそれが正当 なものかどうか判断はできないが、少なくとも私の知っている限り、Mary Romeoによ る"Maid in the U.S.A." (1992, Routledge) における家事労働の研究、Yuko Ogawawaraによる"Office Ladies and Salaried Men: Power, Gender, and Work in Japanese Companies" (1998, University of California Press) の女性オフィスワー カーの研究、Terry L. Besserの"Team Toyota: Transplanting the Toyota Culture to the Camry Plant in Kentucky" (1996, SUNY Press) における自動車生産工場労働 者の研究などのアメリカの研究では三浦先生のいう"仕事のリアル"が見えてくる。よ って、"仕事のリアル"がイメージできないのは日本の社会学会特有のものではないか と推測している。
 三浦先生の発表には2つの重要な問題を孕んでいる。1つは社会学的概念としての "職業"の有効性 (Validity) に関する批判であり、もう1つは実証主義 (Positivism) に対する批判である。まず、"職業"の有効性に関する批判であるが、" 職業"という概念が職業威信スコアではうまく測れていないというものである。現在、 SSM調査などで使われている質問の設定では1つの側面しか測れておらず、現実の 職業とはかけ離れているという。つまり、あらゆる職業には社会的次元とアイデンテ ィティ次元があり、それぞれにアンビバレントな面を持っている。よって、1つの側 面しか測らない"職業"の質問には有効性がないというものである。そして、これが仕 事のリアルを奪っているのではないかというのである。この有効性に関しては4つの 側面を含む質問を設定することにより、より有効的な"職業"の社会学的概念を形成す ることができると考える。ここでおもしろいのは社会学的"職業"概念がその成立時か ら有効性を持っていなかったのか、それとも社会の変化により有効性が減少していっ たのかという問題である。バブルの崩壊後、リストラや非正規雇用の増加により、職 業に対する価値観が変化してきた。社会学は社会の変化による概念の有効性の減少を 概念の細分化、また、再構成をすることにより有効性を保とうとしてきた。もし、社 会の変化により有効性が減少していったのであるならば今がその細分化と再構成の時 期なのであろうか?4つの側面を含む"職業"概念の再構成に期待したい。
 2つめの点に関してであるが、1つめの批判が実証主義の枠内での批判であるのに 対し、これは社会学の支配的なパラダイムである実証主義に対する根本的な批判であ る。つまり社会学が自然科学をモデルとする科学を目指してきたことに対する批判で あると考えられる。科学は事象を抽象化することにより、できるだけ少ない法則でで きるだけ多くの事象を捉えようとするものである。よって、その抽象化が高度であれ ばあるほどより一般化を達成できる。今回の発表では職業の威信スコアは人々の間の 多様な職業の序列づけパターンを平均化し、単一の値にしてしまい"職業"のリアルが 失われてきたというものである。抽象化というものは人間の知的活動、また、日常生 活で不可欠なものである。例えばりんごやバナナなどは指し示す事ができるが、フ ルーツというと一段抽象化されたものであり、それはもうメンタルイメージである。 このように抽象化自体は人間にとって不可欠なものであり、日常生活における抽象化 はリアルを実感できるものであるが、社会学の抽象化は自然科学をモデルとする事に よりそのリアルを奪ってきたのではないか。そして、社会学者が社会学概念を何の疑 いもなしに当然の事として使い、概念が一人歩きしているのではないか。さらに言え ば、社会学者は高度な抽象化を目指さないといけないという規範に支配されているの ではないかと思えてくる。
 このような社会学の現状に対して、今回の発表では仕事研究の新たな社会理論の為 の方向性が示された。それは<仕事と協同>の社会理論の可能性である。<協同>と は人と人とのあらゆる協力的関係を網羅する概念であり、「協働」よりも広い概念 で、「依存」「支援」「排除」「支配」などの関係性を含むものであるという。これ は<日常性の場>に仕事を置き、仕事をリアルに分析するということであるとも言っ ている。つまり仕事を今までの仕事研究よりもより幅広い社会関係の枠組みの中で捉 えていこうとする方向性である。具体的にどのような社会理論が構築されるのかはこ れからの研究課題であるようだが、仕事とそれをめぐる社会関係を日常という具体的 な記述を通して明らかにしていく今後の研究には非常に興味を注がれるところである。 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

2 日本労働社会学会第19期 第3回幹事会議事録     事務局 笹原 恵
    <開催日時: 2007/3/3(土)午後1時〜3時
  • 開催場所: 拓殖大学文京キャンパス、D館第3会議室
  • 出席:藤田栄史、神谷拓平、榎本環、中川功、中囿桐代、京谷栄二、河西宏祐、秋元 樹、赤堀正成、木下武男、武居秀樹、大重光太郎、筒井美紀、笹原恵
  • 欠席:加藤喜久子、吉田秀和、古田睦美、吉田誠、大野威(敬称略、順不同、本文中も同)
議題
  1.  年報編集委員会:赤堀正成
     年報の編集状況については、昨年の大会時のシンポジスト4人にはすでに原稿依頼 をしている(5月末締め切り。原稿用紙50枚以上)。投稿予告は3月10日までだが、 今のところ、アプライはない。もしアプライがないようなら、期間の延長も考えている。
  2.  ジャーナル編集委員会:武居秀樹
     2月21日に入稿を全て終えたところで、3月中に発行予定、4月初めには発送予定 である、次号の投稿については、投稿予告が4月15日、エントリー希望書締め切りが 5月15日、原稿締め切りは7月末の予定である。
  3.  研究委員会
    (1)大会シンポジウム:中川功
     前回の議論では、ワーキングプアとキャリア教育の2件があがっているが、今日は 絞り込みたいので、テーマについて議論をしたい。次回の大会が北海道開催というこ とで、地元の関心や報告者のことも想定していただければと思う。
    幹事会では、現在あがっているワーキングプアとキャリア教育という二つのテーマに ついて、 依頼可能な、あるいは希望するシンポジストについても想定しながら種々議 論を行った。また大会主催地である北海道の状況についても種々 意見交換を行った結 果、最終的には、キャリア教育の方を優先させながら、研究担当幹事と大会担当幹 事、主催校、主催地区で相談していくことになった。
  4.  労働調査プロジェクト:河西宏祐
     種々議論した結果、「原点にもどる」方向に方向転換をしてはどうかということに なった。今回のプロジェクトの趣旨は「学会設立20周年(2008年度)を一つの契機と して、学会本来の目標である労働調査の活性化をはか る」ということであったので、 (1)各地域、各大学、各研究者の研究グループごとに自主的に労働調査を行い、それを学会幹事会として、それらを結ぶ「労働調査ネットワーク」をつくる、(2)研究のまとまったグループから順に「日本労働社会学会設立20周年記念出版シリーズ」として出版する。
     もちろんこれまでの経過の中で、研究プロジェクトを提案して下さったお二人の先 生のご提案については幹事会としてフォローすることになる。
  5.  会計:榎本環
     2006年12月9日に前会計担当幹事から会計書類を引き継いだこと紹介され、当学会の会計状況について、(1)現状報告、(2)問題点、(3)請求作業の三点について報告がなさ れた。(4)会費納入状況については、2006年度ま での会費完納率23.2%、1年以上の滞 納者は全体の76.8%、3年以上の滞納者は57.2%であった。(5)問題点としては、納入 記録の入力データは1998年分以降のみでかつ正確性に欠けること、会費納入名簿と事 務局把握の最新名簿の照らし合わせが必要であることがあげられる。(6)請求作業にあたっては、「会費納入状況告知書兼納入依頼状」(幹事会で承認)を添付のうえ、振込用紙を送付することにする(滞納なし、2007年分のみ未納の会員には振込用紙のみ 送付)。
     また幹事会で議論した結果、「滞納会費が納入された場合は、1998年以降のもっと も古い年度の滞納分から優先的に充当する」ことを確認した。
  6.  事務局:笹原恵
    (1)入会承認 入会希望者4人の「入会申込書」を紹介、回覧し、入会を承認した。
    (2)退会報告 以下の3人の方の退会希望を報告した(いずれも会員本人からの申 し出によるもの)。
    (3)通信の発送他  調査プロジェクトのアンケートなどとあわせて、個人情報の 扱い等についての調査のアンケートを実施することにしたい。また会員の異動につい ては、これまでの事務局資料できちんと把握されていない部分もあるので、通信等で お名前を紹介し、記録に残すことにしたい。
  7.  その他
    (1)社会政策関連学会ネットワーク(仮称)の呼びかけについて:藤田栄史
     藤田代表幹事から、社会政策学会から呼びかけのあった「社会政策関連学会ネット ワーク」(仮称)について紹介があった。当面は打ち合わせの会合に出席してどのよ うな動きなのかをフォローしておくことに したい。具体的なネットワーク化の問題が 話題になった場合には、また幹事会に報告し議論することにしたい。 
     

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

3 会費納入についてなど会計担当幹事からのお知らせ  会計担当幹事 榎本環
(1)滞納会費の収受処理について
 滞納会費の(全額ではなく)一部が納入された場合の収受処理については、従来より、「過去の滞納分から優先的に充当する」との申し合わせがなされておりました が、2007年3月3日に開催された幹事会において、以下の対応をとることが確認・決定 されました。
2007年3月3日幹事会合意事項:
「滞納会費の一部が納入された場合には、1998年度以降の最も古い年度の滞納分から優先的に充当する」

 会計担当では、上記の申し合わせおよび幹事会合意に従って収受処理をとらせてい ただいております。これにより、会費を滞納されている(過年度分に未納がある)場 合、直近に納入いただいた会費が、お支払い・振り込み日付の該当年度分ではなく、 過年度の滞納分として充当されるケース(たとえば、2006年12月某日にお振り込みの金額が2004 年度分として充当されている、など)もあります。ご了承ください。
 なお、本学会の会計期間は、会則第18条の規定により、「毎年10月1日より翌年9月30日まで」となっております。2007会計年度を例に取りますと、「2006年10月1日より 2007年9月30日まで」となります。

 会費納入記録について照会やお問い合わせなどありましたら、下記までご連絡ください。
会計担当幹事: 榎本( t_enomoto"at"nifty.com )

(2) 会費納入のお願い(振込用紙送付のお知らせ)
 2007年度の会費の納入をお願いいたします。年会費の金額および振込先は以下のと おりです。
年会費金額 一般会員:¥10,000、学生会員:¥6,000
【郵便振替口座】 口座番号: 00150-1-85076 加入者名: 日本労働社会学会
【銀行振込口座】 三菱東京UFJ銀行 浜田山出張所
口座番号: 普通預金 0411742 口座名: 日本労働社会学会 榎本環

 近日、郵便振替用紙(「払込取扱票」)を郵送いたしますのでご利用ください。す でにお支払い済みの方、および当方より請求書発行済みの方への送付は省略させてい ただきます。発送作業は4月末までに完了する見込みです(準備作業により送付が遅く なりましたことをお詫びいたします)。

※ 転居なさった方や所属が変わられた方は、振替用紙「通信欄」にその旨を明記・お知らせください。

 過年度分に未納がある会員につきましては、滞納会費「納入お願い」の通知文書を 同封いたします。ご協力をお願い申し上げます。なお、前項(「滞納会費の収受処理 について」)でお知らせしましたとおり、昨年10月以降にお支払い・振り込みをお済 ませの方でも、過年度分未納により、同様のお願い状を差し上げる場合もありますのでご了承ください。

(3)「学会振込口座情報盗難のお知らせ」について
本学会が会費振り込み用として利用しております郵便振替口座に関連しまして、本年 3月に郵政公社より、「個人情報を含む電子媒体盗難についてのご連絡とお詫び」と題 する通知が届いております(原本:「郵便振替口座情報盗難の通知文書](PDFファイ ル)を本『通信』に添付いたします)。本件に関しては、次の郵政公社Webサイトでも 関連情報が公開されております。http://www.yu-cho.japanpost.jp/n0000000/n070313.htm それらによりますと、今回、盗難の対象となったデータは、口座の管理情報および加入代表者(会計担当幹事)に関する情報のみで、本学会会員の個人情報はそれに含ま れていないものと思われます。また、「現在のところ、本件盗難事故に関連して、該 当情報が不正使用された事実は確認されていない」とのことです。上記の通知文書のほかには、 とくに同封物はなく、郵政公社Webサイトでも本件に関する続報等はリリースされてい ないもようです(4月7日現在)。
今のところ、本件に関連して、本学会および会員各位への実質的な被害は発生してい ないものと思われますが、会計担当としても、引き続き情報の収集・把握に努め、続報を入手した際は会報等を通じてご報告いたします。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

4 「奨励賞」推薦のお願い    研究担当幹事 中川功
 日本労働社会学会員のみなさん、本年度の「奨励賞」のご推薦をお願いいたします。
推薦要件は以下のようになっております。 なお、別添の「日本労働社会学会奨励賞 規程」を参照してください。
1.奨励賞の受賞資格者は、原則として本学会に2年以上継続して在籍し、当該年度 において満40歳以下の会員とする。ただし年令制限については、研究歴を考慮する。 [規程第2条]
2.審査対象は、「著書」の部と「論文」の部との2部門とする。[規程第3条]
3.著書・論文発表期間は、2006年4月1日から2007年3月31日までとす る。[規程第3条]
4.推薦締め切り日  2007年5月31日 
なお、推薦者の方は「簡単な推薦理由」を添えて、中川 までご連絡ください。どうぞよろしくお願いいた します。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

5 会員の異動(幹事会報告参照)
*入会者4人:略
*退会者3人(いずれも会員本人からの申し出によるもの)

 

6 「労働社会学研究」(ジャーナル)原稿募集
 すでに速報でお伝えしましたが、労働社会学研究(ジャーナル)の投稿についてお知らせいたします。メールでの申し込みとなっております。ふるって投稿ください。
  1. エントリー(投稿申し込み): 4月15日(日)まで
        申し込み先: 編集委員長 武居秀樹(都留文科大学)
  2. 投稿希望書の提出      5月15日(火)まで
        提出先  編集委員長 武居秀樹(都留文科大学)
  3.  原稿締め切り 7月15日(土)まで
  4.  発行予定   2008年3月上旬予定

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

7  7月の研究例会報告募集
 次回の研究例会(2007年7月7日(土))の報告者2名を募集します。報告く ださる方は、5月15日(火)までに、その旨、報告テーマとともに、例会担当(神谷拓平)までご連絡ください。