日本労働社会学会『通信』

vol.IX, no.2(2003年3月)

日本労働社会学会事務局
法政大学大原社会問題研究所
鈴木 玲 (すずき あきら)

(学会ホームページ)http://www.jals.jp

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「日本労働社会学会 村尾祐美子」
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目次

I 第5回幹事会議事録  

II 5月定例研究会の報告
・ 飯田祐史氏「90年代の金融保険業の労働市場」について
(青山学院大学経済学部 松尾孝一)
・ 大野正和氏「過労死・過労自殺の心理と職場」について
(京都府立医科大学 滝下 幸栄)

III 3月定例研究会の報告
・小村由香氏「感情労働と自己:サービス労働研究のための一考察」について
(青山学院大学経済学部 白井邦彦)

IV 各種連絡
1.次回幹事会および5月定例研究会のご案内
2.第15回日本労働社会学会研究大会(京都)のご案内(第1報)(重要)
3.会員の住所変更・新入会員紹介



I 第5回幹事会議事録

・日時 2003年5月24日(土)12:00〜14:00
・場所 専修大学1号館社会科学研究室
・出席者 辻、市原、大梶、小川、柴田、白井、鈴木、高橋、滝下、藤井、兵藤、藤田、松戸、村尾、山下。

議題
1.日本労働社会学会奨励賞
 日本労働社会学会に何らかの賞を設ける問題について、事務局(担当藤井幹事)から、「日本労働社会学会奨励賞規程」の提案があった。その骨子は、「学会賞」ではなく、将来性ある研究を励ます「奨励賞」として設置すること、若干名の選考委員会を幹事会の委嘱により設置すること、大会で表彰をおこなうこと、などである。
 議論の結果、若手の研究を励ます「奨励賞」としての性格を明確にするために、年令制限を設けること(ただし、社会人院生などの場合、研究歴を考慮すること)、選考委員会への論文推薦は、自薦他薦によること、などの意見が確認され、7月までに修正・再提案することとなった。

2.社会調査士問題
 高橋幹事より、日本社会学会で討議されている「社会調査士」資格の問題について議論の経過が報告された。
 日本労働社会学会がどのような意見を上げるかについて議論し、質的な調査を重視してきた本学会の特徴を踏まえ、上げる意見について、担当幹事に再度整理してもらうことが確認された。

3.大会準備状況
 滝下幹事より、立命館大学における本年度の全国大会の準備状況について報告され、次のスケジュールが確認された(IV各種連絡を参照)。
・自由報告申し込みの案内→次の『通信』によりおこなう。
・自由報告申し込み締め切り→7月17日(次回の幹事会前)
・報告要旨締め切り→9月5日必着
・大会資料発送→9月末日
・工場見学→10月31日(金)
・大会→11月1日(土)〜11月2日(日)
 また、大会参加費などは、値上げしない方向で考えることが確認された。

4.ジャーナル(労働社会学研究)発行予算の件
 代表幹事より、前編集委員長から、第4号のジャーナルがこれまでより100頁増であるため、通常の予算よりも増額する可能性についての打診があった旨報告された。議論の結果、今回に限り、ジャーナル予算65万円の範囲で検討してもらうこととなった。
 また、担当幹事より、エントリー5本であり、順調に進んでおり、年度中に出版予定である旨報告された。

5.年報編集委員会
 藤田編集委員長より、年報第14号の準備状況について報告された。
 英文レジュメのチェックをどうするかについて、提起され、議論した結果、ジャーナルのものと合わせ、2万円程度でネイティブの大学院生などに依頼する方向が確認された。

6.研究活動委員会
 松戸研究活動委員長より、大会シンポジウム準備状況について報告された。「若年層の就労状況をめぐる労働研究アプローチの諸相」というテーマでおこなうこと、報告者3人のうち2人は会員から出す方向で準備しているが、まだ未定であり近く活動委員会を開いて進め方を検討する。

7.新入会員
 代表幹事より4人の入会希望者について報告され、了承された(IV各種連絡を参照)。

8.学術会議会員推薦委員会報告
 代表幹事より5月9日に日本学術会館で行われた学術会議会員の推薦に関する社会学研究連絡委員会の模様について次のように報告があった。社会学関連学会の推薦人として集まったのは27名であった。会議では最初に、推薦する学術会議会員候補者のジェンダーバランスをどうするかについて種々の論議を行った上で投票に入り、数回の投票によって3名の候補と1名の補欠を選出した。3名の候補者のうち2名は女性が選出された。

9.会計報告
 村尾会計担当幹事より、支出、入金について報告された。また、定職を持たず、かつ、遠方に居住する者を例会報告者として招く場合の旅費について問題提起があり、一人1万円を上限(距離が500km以上の場合。名古屋など距離が300km程度の場合、5千円位)として援助を行うことが確認された。


10.事務局報告
 鈴木事務局長より、送付方法不明のため「通信」を送付していなかった59名の会員にメールか郵送かのアンケートを送り、15人から返事が来た旨報告された。議論の結果、返事のなかった会員へは送付しない旨確認された。


                                
II 5月定例研究会の報告

飯田祐史氏「90年代の金融保険業の労働市場」について   
(青山学院大学経済学部 松尾孝一)

 本報告は、「90年代以降の環境変化に対し金融保険業の労働市場は変化したか」、「ホワイトカラーの技能形成に産業別の違いはあるのか」という問題意識から、製造業と金融保険業の従業員規模1000人以上の企業に勤務する大卒男子従業員の賃金プロファイルを比較する作業を行い、90年代における金融保険業の賃金構造の変化の特徴をとらえようとしている。さらに両産業における賃金関数を導出し、両者の比較も行っている。それらにより、金融自由化などの90年代の環境変化が金融保険業の労働市場に及ぼした影響と、同産業で求められる技能について解釈しようとするものである。
 本報告では、年齢・勤続年数を重ねることで企業特殊的技能が上昇し、それが賃金に反映されるという(小池和男氏らによって主張されてきたような)人的資本理論を前提とした上で、金融保険業ホワイトカラーの技能を企業特殊的管理能力+金融の専門知識と想定する。しかし金融自由化に伴い金融の専門知識がより重視されるようになれば、企業特殊技能を形成する勤続年数は賃金に対して影響力を失うだろうという仮説を設定し、それを賃金データにより実証しようと試みているのである(データは『賃金構造基本統計調査』の1985・1990・1995・2000年の産業別賃金データ)。そのデータから製造業と金融保険業の賃金プロファイル・賃金関数を導出し比較した結果、以下のような点を指摘する。
 まず賃金プロファイルについては、両産業とも90年代を通して緩やかになってきているが、それは金融保険業でより著しく、その結果両産業間の賃金格差は縮小している。特に金融保険業では、55歳以上の部分が50代前半よりも落ち込む形になっている。また金融保険業では、40歳以上の勤続年数が近年低下傾向にある。次に賃金関数については、経験年数・勤続年数などを説明変数にとった最小二乗法により推計を行った結果、製造業では勤続年数の賃金への限界的効果が85年以降も一貫してみられるのに対し、金融保険業ではそれがみられないとしている。一方、経験年数の賃金への効果は総じて金融保険業の方が大きいとしている。
 これらの結果から本報告では、80年代後半以降の金融自由化が、金融保険業の賃金プロファイルに影響を与えた可能性があることを指摘する。すなわち、金融自由化の結果、金融保険業では金融の専門的知識が重視されるようになってきている可能性があり、そのため勤続年数の賃金への効果が低下する一方で、優秀な知識やスキルをもつ労働者は高給与を求めて企業を渡り歩いている可能性があるということである。さらにこの分析からの含意として、製造業に比べ金融保険業ではスキルの企業特殊性が小さく、その結果賃金が勤続年数に依存する度合いが小さくなり、成果主義が効果を有しやすいことを指摘している。
 以上の報告をめぐって出席者からは様々な意見が出された。その主なものを挙げれば、第1に、優秀な知識やスキルを持ち企業間を渡り歩く労働者はディーラー等の特定職種以外にも数多く存在するのかどうか、金融保険業内でも業種や企業規模によって人事管理は異なっているのではないか、などの人事管理の実態面との整合性を問うたコメントが出された。第2にスキルとの関連で、一般労働者の業務に占める金融の専門的知識の比率はどの程度なのか、勤続年数を重ねることで獲得される能力を企業特殊的能力とだけとらえてよいのか、経験年数を重ねることで得られるスキルを専門能力ととらえるのはどうか、などの意見が出された。第3に賃金関数推計に関わる問題として、金融保険業で勤続年数の効果が近年マイナスとなっているのは単に50代後半層の賃金が低下しているからに過ぎないのではないか、年齢だけでなく役職ごとの賃金格差も考慮する必要があるのではないか、もっと多くの説明変数を設定できるようなデータを利用することはできないか、などの意見も出された。第4に方法上の問題として、総じて金融保険業における具体的な環境変化や労働実態に切り込むことのないまま、小池氏らの内部労働市場における熟練形成論の枠組みと計量分析とに依存しすぎなのではないか、という趣旨の意見が出された。これらの意見に対して飯田氏による十全なリプライが席上なされたとは必ずしも言い難いが、これらは氏の研究にとって有益なものであったと思われる。今後の研究の進展を期待したい。


大野正和氏「過労死・過労自殺の心理と職場」について
滝下 幸栄(京都府立医科大学)

 大野報告は,労働法学や産業保健の研究対象であった過労死・過労自殺の問題を労働社会学ないしは経営学的な視点からの解釈を試みたものである.特に過労死・過労自殺の原因を「心理・心(性格論)」と「職場(仕事の構造論)」を結びつけて解明しようとした点が斬新であった.
 氏は「長時間労働原因説」や「本人の性格責任説」など従前の原因説に多面的な検討を加えた後,過労死・過労自殺の原因は,まじめで責任感が強く他者に気を遣う「メランコリー親和型性格」が,仕事や責任の境界が曖昧な「柔軟な職務構造」に組み込まれていったことであると結論づけている.氏は,過労死を考えるとき,過労死問題がピークに達した1980年代後半について考えることが重要であるとしたのち,この時期を次のように性格づけている.€労働時間の二極化(仕事負担・責任の二極化の進行), 職場集団性の弱まり.(チームよりも個人で仕事,助け合いの要素の減少).そして仕事熱心で責任感が強い「メランコリー親和型性格」の人はその変化の中,責任と仕事の境界線が曖昧な職場の中で,多くの負担を抱え込みようになり,過労死・過労自殺につながったとする主張である.
 上記報告後は活発な議論が展開された.まず過労死がなぜ80年代なって社会問題化したかという点については,統計学的資料はないが,この時期は「働き過ぎによる死」が事件性を持つようになり,また訴訟例が出始めた時期である.社会的認知を得た時期ととらえることができるとのことであった.また,職場集団性がなぜ崩れてきたのか,「心情反射作用」がなぜ弱まってきたのかを考えることは,社会学的に重要な関心事との指摘があった.この点については,80年代は,家族や地域の機能も変化してきた時期であるとの意見や日本人の働き方や仕事の価値付けを文化や社会的構造から考えていくことが大切等の議論がなされた.
 私は現在,精神科医療の現場で仕事をしている.過労自殺には幸いに至らなかったが抑うつ状態で入院する患者を間近にみている.大野氏が報告で語った幾つかのエピソードや「メランコリー気質」の説明は,何人かの患者の顔を容易に思い出させた.氏がいう「どこに顔を向けた研究なのか」が容易に理解できる報告であった.今回の研究は,多くの当事者への取材があって成り立っているのだろう.彼らに対し責任があると氏自身もおっしゃっていたが,ぜひ精神保健,産業保健の分野へのさらなる提言を期待するものである.



III 3月定例研究会の報告
小村由香氏「感情労働と自己−サ−ビス労働研究のための一考察」
(青山学院大学経済学部 白井邦彦)

小村氏の報告は先頃執筆した、「サービス労働研究の一視覚として『感情労働』を取り上げ、顧客との相互行為を中心とするサービス労働の特質、労働者が直面する問題を抽出するとともに、今後の労働研究においてそれがもつ可能性と課題」を分析・検討した修士論文について報告したものである(「 」は同氏当日提出のフルペーパーより、以下特に断りのない場合は同)。「感情労働」とは「職務内容の一部として求められている適切な感情状態や感情表現を作り出すためになされる感情管理」(Hochschild[1983]The Managed Heart p.7)と定義されるもので、「第一に体面あるいは声による顧客との接触が不可欠であること、第二に感情労働に従事する人は、他人の中に何らかの感情の変化−感謝の念や恐怖心等−を起こすために、意識的に自己表現するという操作を遂行しなければならないこと、第三に感情労働に対するガイドラインである『感情規則』が経営者によって作り出され、仕事の重要な側面として労働者に伝えられ、研修と管理体制を通じて労働者の感情活動をある程度支配する」 という共通性をもった労働のことである。修士論文では先行研究として「感情労働」研究の先駆者であるHochschildの感情労働論およびHochschild以後の感情労働論を、多数の事例とともに検討を行った。そうした検討の結果、「感情労働」概念を用いることによる分析には、「感情労働は対人サービス労働の主要ではあるが一構成要素でしかなく、対人サービスの職務は感情労働的な要素によってのみ遂行されるわけではないこと」 「サービス労働が労働者にもたらすネガティブな帰結は感情にかかわることだけから生じるのではなく、例えば労働条件や職場環境等にも左右される」 等といったことによる制約があるとしながらも、「『感情労働』概念を用いることによって、それまであまり焦点が当ててこられなかったサービス労働者と顧客との相互行為プロセスや、労働者の心理的側面を記述することが可能になったことで、対人サービス労働者の実態を詳細に描き出し、多様な労働世界がみえてきた。・・・『労働者の像』の解明という課題に十分応えうる有効な分析枠組みである・・・。またその成果については、C・ミルズやD・ベル、H・ブレイヴァマンの描いた労働者の自己論をさらに一歩踏み出したともいえる」との意義があるとしている。そして最後に今後の課題として、サービス労働者に関する実態調査をめぐる課題には、1、サービス労働者に対して、従来の「日本的経営」において製造業の生産現場で既に採用されてきた管理方法がどのように適用されているか、または別の手法が採用されているかの実態分析、2、サービス労働者は健全な自己保全のためにどのように対処しているかについての実態調査、3、サービス業に普及しつつある合理化・効率化の労働者に与える影響の調査、の3点が、理論的な課題には「(1)感情労働を要する職業の類型化、(2)・・・職場という公的世界での親密な私的関係の構築やコミュニケーション行為、職場で生じる感情経験を私的なものとして官需しうるための技法についての考察、(3)サービス労働における労働過程の特徴」等についての検討、の3点があることを提示し、報告を終えた。
以上の報告を受け報告者と参加者の間で活発な意見交換がなされた。そこでは同報告に対する疑問として「『感情労働』という側面に特化しすぎではないのか。『感情労働』でくくられるものと、それ以外のものをどのように区別するのか」という点がだされるとともに、報告全体に対する総括的コメントとして「『感情労働』という視点で職場労働をみると、どのような姿が浮かびあがるのか、それを提示することが重要である」との指摘がなされた。



IV 各種連絡

1.次回幹事会および3月定例研究会のご案内

日時:2003年7月19日(土)午後0時00分から幹事会。午後2時から定例研究会
場所:専修大学神田校舎1号館12階社会科学研究所

定例研究会の報告者の報告テーマ:(現在未定、後日連絡します)

2.第15回日本労働社会学会研究大会(京都)のご案内(第1報)

1.日程:平成15年11月1日(土),11月2日(日)
2.会場:立命館大学

3.研究大会における自由論題報告の申し込みについて
  秋の大会で自由論題報告を希望される方は,そのご意向を研究活動委員会までお知らせ下さい。
・申込先
〒489−0863 瀬戸市せいれい町27番地
南山大学 瀬戸キャンパス 総合政策学部総合政策学科 松戸武彦研究室
・申し込み締め切りは,平成15年7月17日(木)必着です.
なお,報告要旨は,9月5日(金)必着で大会幹事(京都府立医科大学,滝下幸栄)に送付願います.みなさま奮ってご応募下さい。