日本労働社会学会『通信』

vol.IX, no.2(2003年3月)

日本労働社会学会事務局
法政大学大原社会問題研究所
鈴木 玲 (すずき あきら)

(学会ホームページ)http://www.jals.jp

(郵便振り込み口座番号)
00150-1-85076
「日本労働社会学会 村尾祐美子」
(銀行振り込み口座番号)
東京三菱銀行 大塚支店 
普通 口座番号 1519051
「日本労働社会学会 会計 村尾祐美子」




目次

I 第4回幹事会議事録  

II 3月定例研究会の報告

・黄咏嵐氏報告「中国民営企業の労使関係と人事労務管理−民営科技企業を中心にして」
(なお、小村由香氏「感情労働と自己:サービス労働研究のための一考察」の報告は次号で行います。)

III 各種連絡

1.次回幹事会および5月定例研究会のご案内

2.IIRA(国際労使関係協会)第5回アジア会議のご案内

3.会員異動、新入会員、退会者



I 第4回幹事会議事録
                                
・日時 2003年3月29日(土)12:30〜14:00
・場所 専修大学1号館社会科学研究所
・出席者 辻、小川、白井、鈴木、柴田、清山、田中、兵頭、藤井、藤田、松戸、村尾、山下。

議題
1.日本学術会議の要請への対応について
 辻代表幹事より、前・元代表幹事への問い合わせおよび事務局との調整の上で、日本学術会議への会員候補者推薦については、前回同様、日本労働社会学会としては推薦しないこととし、推薦委員として代表幹事が担当することにした旨報告され、了承された。

2.「通信」の送付方法改訂について
 事務局より、「通信」の送付方法について、これまでのように、メールもしくは郵便での送付を希望した会員にのみに送付する(その他の会員はHPで閲覧することを想定)方法でなく、全会員に(メールもしくは郵便にて)送付するように改訂してはどうかとの提起があった。議論の結果、メールアドレスを保有しており、本人の了解がある会員にはメールにて送付し、それ以外の会員には郵便にて送付することが了承された。

3.会員外の『年報』執筆者への『年報』郵送について
 事務局より、元会員の『年報』執筆者に対して、『年報』が郵送されていなかったことについて報告され、早急に郵送することが確認された。

4.国際労使関係学会アジア大会への報告呼びかけについて
 事務局より、韓国の労働研究員から、2004年6月に国際労使関係学会アジア大会がソウルであるが、参加者が少ないので日本労働社会学会会員にもお知らせしてほしいとの依頼があった旨報告され、そのような通知を『通信』で出すことが了承された。また、詳しい内容のサイトを紹介する。5月末締め切りで、英文500字の要旨を出すこと。発表は英語である(下記参照)。

5.新入会員について
 入会希望者1名について報告され、了承された(下記参照)。

6.専門委員会よりの報告
(1)編集委員会
 藤田編集委員長より、現状が報告された。特集原稿4人にこれから依頼すること、投稿原稿予告は6人からあること、書評は8本で、それぞれ依頼はこれからである。
 投稿予定者の中で、学会で一回も報告していない院生会員がおり、投稿規定では報告の義務はないが、できるだけ研究会などで報告してもらうとの意向が示され、確認された。

(2)研究活動委員会
 松戸委員長より、通常の研究例会で、院生会員ばかりでなく、研究を進めているより年長の会員の報告も聞きたいとの意見、また特定の人の研究を聞きたいとの意見が出されていると報告され、これに対し、例会の1本は、学会デビューの院生会員などでよいが、もう1本は、それ以外の聞きたい研究テーマでの報告を依頼したいとの提案がされた。これについて議論し、了承された。
 同じく、次の大会について、テーマの骨子を5月までに決めること、3人のうち1〜2名は会員から選びたいとの提案があり、了承された。また、テーマについて議論し、若年の失業や不安定就労などのテーマを経済学的、若者意識論的に追求するという方向が有力なものとして出された。さらにこれからの期間、いろいろな意見を集約することになった。

(3)労働社会学研究編集委員会
 清山編集委員長より、次回研究誌の論文は2月に集まっており、早ければ5月発行予定であること。その次の研究誌については、3月のエントリーで4件あったが、さらに4月一杯までのばすか否か提案された。これについて議論し、当初日程通りで進めることとした。
 また、2回目の査読のC判定について認めるか否かについて提案され、2回を限度としてその後は編集委員会の判断とすることが確認された。
 研究例会報告について、必ず載せることが確認されるとともに、報告者の買い取り制度は研究会例会報告については行わないことが確認された。

(4)会計
 村尾会計担当幹事より、郵便通帳の名義変更が終了したことについて報告された。また、銀行口座(東京三菱)について、「通信」に口座番号を記載することが確認された(通信のトップ参照)。

7.その他
・代表幹事より、社会調査士資格の制度化に向けての日本社会学会専門委員会での件検討状況について報告があった。次回の幹事会で高橋幹事からこの件について提案がなされる予定である。
・学会賞の件について、次回幹事会で事務局の担当者(藤井幹事)から基本的な考えを出すこととした。
・次回幹事会の開始を、5月24日(土)12時とした。



II 1月定例研究会の報告

黄咏嵐氏報告「中国民営企業の労使関係と人事労務管理−民営科技企業を中心にして」
(南山大学 松戸武彦)

黄咏嵐氏の報告は、急激な市場経済化が進む中国の中で、民営企業を中心に生じている新しい労使関係の型を問題にしたものである。すでに中国政府は、「社会主義市場経済化」というスローガンから歩を一歩すすめ、「三个代表」という標語の下、私営企業家の入党を認め、本質的な意味で農民・労働者政党から国民政党への脱皮をはかっている。その過程で、生産活動の中心セクターが従来の国有企業から民間セクターに転移しつつあることは多くの研究で指摘されるとおりである。黄氏の報告もこうした流れの中で生じている新しい現象に着目し、その社会的意味を問うという報告であった。
 黄氏が指摘するように従来の労使関係論が、労働者全体をひとまとめにしたかたちで問題にすることがほとんどで、そこではいわゆる集団的労使関係が種々の問題の分析や説明のあり方を枠づけていたことは確かである。このような研究方針に対して、黄氏は、中国で生じつつある企業活動とそこでの雇用関係のあり方、および工会と呼ばれる労働者団体の現時点の性質からして集団的労使関係という枠組みでの分析よりも個別的労使関係という枠組みでの研究方針を提唱している。工会は、とりあえず労働組合と訳されるが、資本主義国の労働組合とは性質も目的もはっきりと異なっている団体である。そして、工会に課されてきた従来の社会的役割と市場経済化の中で生じているその変化、および「不変化」へのが注目が、中国の労使関係を現時点で分析するときの焦点をどこに当てるべきかという、黄報告の中心的論点の前提にあることはまちがいない。
 黄報告では、「中関村<チョンガンツン>」とよばれる、IT産業があつまり、秋葉原的色合いをみせる北京の北西地区を対象にした調査を下にしている。この地区は北京大学と精華大学という2大重点大学が近接する地域で、IT産業に関しては世界的に見ても現在最もアクティブな地域である。調査は、そこの民営企業の技術者に対して行われたものである。黄報告の要点を簡単にまとめると、そこでは専門技術者をめぐる企業間の激しい人材獲得競争のもと高い自発的転職が認められるというものであった。このような労働力需給関係の特徴から、専門技術者たちは、採用、契約の終結、評価、処遇などに関して個別交渉を第一義的に考慮し、集団的労使関係の枠組みでの問題解決にはほとんど関心を示さないし、実質的にも集団的労使関係の枠組みは機能していないというものであった。専門技術者たちは自らの労働条件に不満がある場合、個別的な交渉や転職という方法に訴えるのであり、労働組合による苦情処理という回路は現実的ではないというものであった。黄氏は、このような調査結果を前提として、民営科学技術企業の人事労務管理の特徴を次ぎ4点に集約した。つまり、1雇用と処遇の個別化、2雇用関係の市場化、3雇用関係の契約化、4雇用関係の短期化、である。そして、このような企業では、結局労使関係もこのような人事労務管理に枠づけられると言うものであった。
 黄氏の報告は、現時点での中国民営企業の労使関係を理解する上で、我々に新しい視点を提供するものであった。ことに情報が比較的に少ない民営企業で起こっている事柄の基本的理解に関しては重要な提起を行っていると考えられる。したがって、ここでは、黄報告に対して2、3の疑問を提出し、本稿を終わりにしたい。一つは、このような労使関係が高度成長期、および当該産業の創成期に特有の活発な企業活動に特徴的なできことの反映ではないかという点である。その意味で、期間限定的な、過渡期的な現象であると言う印象がぬぐえない。2つ目は対象が専門技術者であるという点である。これらの人々はその技術力から労働条件に対する相対的に高い交渉力を持つことは当然である。とくに需給関係がタイトな時にはこのような力は相対的に高くなる。黄氏が見た現象はこのような現象の一部だったのではなかろうか。最後にここで問題にされてきたような労使関係のあり方は、従来日本の関係学会では、人事労務管理論、あるいは労働市場論の中で検討されてきたものであるという点である。個別的労使関係という術語の下での分析が持つ、新規性や新しい視点の設定は中国のみならず日本においても十分に意義があると考える。しかし、一方で、このような現象は日本を含め「普通の」資本主義国では普遍的な現象であり、このような個別的労使関係の枠組みの中では自らの力の弱さで問題解決が絶望的である「普通の」労働者が、市民法的世界のなかの異質空間として、選び取ってきた回路が集団的労使関係でなかったかという理解である。その意味で、中国の「普通の」労働者にとって自らの労働条件の改善が個別的労使関係の枠内で十分に果たされる、あるいは果たされつつあるという印象は、現在の中国企業に関する数少ないルポルタージュや報告をかいま見ても到底持つことはできない。むしろ、女性労働者に起こりつつあることは、市場経済化が労働条件の劣悪化と平行する現象であるような事例さえ見受けられる。そして、このような現象を見ていくと、工会の変質、あるいは一歩進んで政権の指導や企業の生産活動から相対的な独立性を持つ労働組合の形成が視野に入ってくるように思える。確かに現在の中国共産党の権力の強さとその性質からしてこのような展望は現実的ではないように見えないこともない。しかし、他方、市場経済化は中国が「普通の」国と社会になる過程でもある。そこでは、労働者の権利が「先天的」に保証されるような「社会主義システム」は消え去るのであり、権利の保障は人々の日常的努力に委ねられることになる。その時、あらためて中国における集団的労使関係の質が問われるのではないだろうか。



III 各種連絡

1.次回幹事会および3月定例研究会のご案内

日時:2003年5月24日(土)午後0時00分から幹事会。午後2時から定例研究会
場所:専修大学神田校舎1号館12階社会科学研究所

定例研究会の報告者の報告テーマ:

大野正和氏 「過労死・過労自殺の心理と職場」 大阪経済法科大学
飯田祐史氏 「90年代の金融保険業の労働市場」 東京工業大学大学院生

2.IIRA(国際労使関係協会)第5回アジア会議のご案内

国際労使関係協会第5回アジア会議事務局より、労働社会学会の会員に参加を呼びかけてほしいとの依頼がありましたので、詳しい情報を以下に記します。分科会発表は英語および韓国語で、論文要約提出が5月末締め切りです。是非、ご参加をご検討願います。

1.日時:2004年6月23日〜26日(4日間)
2.場所:韓国・ソウル市
3.主催:IIRA第5回アジア会議組織委員会、韓国労使関係協会(KIRA)、韓国労働研究院(KLI)
4.使用言語:総会(英語・韓国語・日本語・中国語)、分科会(英語・韓国語)
5.全体テーマ:“アジア太平洋地域の雇用関係の動態と多様性”(Dynamics and Diversity of Employment Relations in Asia-Pacific Region)
6:トラック:(1)雇用関係の新しい形態、(2)グローバリゼーション・IT革命と雇用関係の変化、(3)労働と社会問題、(4)労働力移動:政策上のジレンマと将来予測
7.論文締切等:論文要約提出(英文500語以内、提出締切日2003年5月31日)、審査結果発表(2003年6月30日)、論文提出(2004年1月31日)
8.要約提出先: IIRA第五回アジア会議事務局(韓国労働研究院国際協力室)
9.その他:関連Web Site:
Dear friends and colleagues <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_1.htm>
First Announcement<http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_2.htm>
Call for Papers <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_3.htm>
Theme of the Congress <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_4.htm>
- Track 1 <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_5.htm>
- Track 2 <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_6.htm>
- Track 3 <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_7.htm>
- Track 4 <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_8.htm>
Special Sessions <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_9.htm>
General Information <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_10.htm>
Financial Support <http://www.kli.re.kr/eng/mail/20020925/kli_11.htm>