日本労働社会学会『通信』

vol.IX, no.2(2003年3月)

日本労働社会学会事務局
法政大学大原社会問題研究所
鈴木 玲 (すずき あきら)

(学会ホームページ)http://www.jals.jp
(郵便振り込み口座番号)00150-1-85076
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「日本労働社会学会 村尾祐美子」


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目次

I 第3回幹事会議事録  
II 1月定例研究会の報告
1.洪哉信氏報告「使用者団体にみる戦後労使協調主義の形成」について(専修大学 兵頭淳史)
2.倉田隆太郎氏報告「地方都市のフリーター――浜松におけるフリーターの意識」について(横浜国立大学 小川慎一)

III 第14回大会報告
シンポジウム:「階層構造の変動と『周辺労働』の動向」について(一橋大学大学院 中村広伸)

IV 各種連絡
1.『労働社会学研究』第5号の投稿募集について
2.次回幹事会および1月定例研究会のご案内
3.新入会員紹介



I 第3回幹事会議事録
   
労働社会学会第3回幹事会議事録

・日時 2003年1月25日(土)12:30〜14:00
・場所 専修大学神田校舎1号館社会科学研究所
・出席者 辻、市原、大梶、小川、鈴木、柴田、清山、高橋、兵頭、藤田、松戸、村尾、山下、藤井。

報告
1.各委員会報告
(1)研究活動委員会(松戸委員長)
・次回大会に向けての案などの提案はない。学会発足以来、シンポジウムテーマも一回りしている。ある程度重複したテーマであっても、もう一度深くやることも考えて良い。
・定例研究会での報告者依頼も今の時期は厳しかった。今後若手に限らず話を聞きたいという人を推薦してほしい。

(2)年報編集委員会(藤田委員長)
・特集は、秋の大会シンポジウムテーマ(階層構造の変動と周辺労働の動向)で報告者に依頼し、企画の渡辺氏に解説を書いてもらう。
・特集の追加として、フリーターや若年労働問題についてのこの間のいくつかの研究成果について論文に近いレビューをしてもらう。
・「フィールド調査 職人芸の伝承」は、関東、関西、北海道で一巡したので少し休む。
・書評について何を取り上げるか、5本くらい考えている。

(3)労働社会学研究編集委員会(清山委員長)
・昨年度からのものは、前委員長のもとで進められている。論文4本+研究会報告。
・次号は、3月締め切りで募集している。前回はエントリーが集まらないので、刊行次期を延期した。今回は、出来るだけ締切りまでにエントリーを集めたいので、周りの人に勧めてほしい。また、前回論文提出を考えていたが断念した会員は、再度チャレンジしてほしい。
 →労働社会学研究誌について、執筆者の買い取り制をとっているが、定例研究会報告だけの執筆でも買い取り義務が生ずるのは問題ではないか、との意見があり、改善を考えることとなった。

(4)会計(村尾幹事)
・銀行口座を新しくした。
・郵便貯金の口座代表者(団体名義の口座には口座代表者が必要なので、便宜上会計が代表者となっている)交代に伴い、口座住所(振込等の通知先)を変更する必要があるが、このような理由で住所変更を行う場合には、団体規約等に「団体口座住所を口座代表者の住所とする」旨の記載が必要なので、「本会の会計講座の住所は、口座代表者である会計担当者の住所とする」との規約改正が必要となる。
 →これについて議論し、会則変更は大会承認事項となるため、細則として明記することとし、通信で周知徹底することとした。

(5)事務局(鈴木事務局長)
・二人から入会申し込みがあった。
 →推薦人がいない申込者について慣例に従い代表幹事が推薦人となることとし、2名について承認された(IV−3新入会員紹介を参照)。
 →書籍の保管場所について、在庫が17箱あるため、発送係の他、3名の幹事のところで分離保管することとした。これについて、ある段階では整理も考えるべきとの意見が出された。

議題
1.学会賞について
・代表幹事より、前回幹事会からの引き継ぎの学会賞についてどうするかとの提起があった。
 →これについて議論し、特に若手を励ます「研究奨励賞」的な意味があるのでは、との意義が確認された。選考委員は、幹事会でなく、重鎮を含む他の会員で構成する方向が示唆された。このような形で実現する方向を他学会の状況などを調べながら追求することとなった。また、これについての情報集約は藤井事務局員が担当することとなった。

2.社会調査士制度への対応について
・代表幹事より、日本社会学会でも検討している社会調査士への対応をどうするかとの提起があった。
 →これについて議論し、質的なインタビュー調査をメリットとする労働社会学会の立場から、何らかの問題提起をすべきではないかとの方向が確認された。この問題についての情報集約は、高橋幹事が担当することとなった。

3.ホームページでの通信掲載について
・ホームページに、通信掲載を介して、会員の個人情報がのる可能性について、今後、ホームページ担当者の判断で、個人情報は載せない方向をとることが確認された。

4.辻代表幹事から次の報告があった。
 日本学術会議から文章で、2月4日に京都大学で次期(第19期)学術会議会員の選出に向けての説明会を開催するとの連絡があった。この会議には京都在住の辻が出席し、その内容等は次期幹事会で報告する。


II 1月定例研究会の報告

(1)洪哉信氏報告「使用者団体にみる戦後労使協調主義の形成」について(専修大学 兵頭淳史)

 洪哉信氏の報告は、現代日本における協調的労使関係(以下、「日本的労使関係」)の基盤をなす条件を、経営者側の理念に着目しつつ歴史的視点から明らかにしようとしたものである。同報告においては、そうした経営者側の理念が「労使協調主義」と表現され、経営者団体の中でも日本経営者団体連盟(日経連)によってそれが採用されたことが、日本的労使関係の成立にとって決定的に重要だとされる。そして日本的労使関係の具体的制度的な核をなす能力主義管理の成立も、この「労使協調主義」の具体化であると主張されるのである。以下、報告内容にしたがい、敗戦からそこに至るまでの歴史的過程を時間軸にそって概観する。
 敗戦と占領、それに続く労働運動の高揚によって、日本の経営は危機的状況に直面した。その危機の中から、経済同友会の主唱する「企業経営の民主化」という労使協調の理念が登場する。これは、資本と経営の分離を前提とし、その上で経営者を労働と資本の利害の調停者として位置付けることにより、失墜した経営の権威を回復し、「経営権」を確保しようとするものであり、経済復興会議と経営協議会はこの理念を具体化するものであった。しかしこの路線は経済復興会議が各参加勢力の同床異夢の産物にほかならなかったという事実に加え、占領政策の転換による労働運動への抑圧がはじまったことにより挫折する。
 これに代わって登場するのが、日経連による、労働への対決を基調とする「経営権の確立」路線である。日経連は、40年代末から50年代初頭にかけて、占領政策の転換を背景として、労働法の改正、それにともなう労働優位の労働協約の破棄、経営協議会の改編、さらにはレッドパージと職場防衛運動による経営に対する「非協力者」の追放などを通じて、経営権の確立を実現していった。しかし、こうした対決路線によっては労働者を企業秩序に統合するまでにはいたらず、敗戦直後の労働攻勢によって実現した生活給中心の賃金体系(年功賃金)は強固に残存し、日本労働組合総評議会(総評)を中心とする労働運動による
経営権に対する挑戦も持続する。
 こうした中で、経営者側からの労使協調路線が再び、経済同友会を主たる担い手として、生産性向上運動という形で登場してきた。だが日経連は、50年代を通じて、総評への対決姿勢、そして賃金体系の職務給への改編の試みといったかたちで、労働側への対決を基調とする路線を維持することとなる。
 そのような日経連の姿勢が変化するのは60年代に入ってからである。労働運動の世界で、全日本労働総同盟(同盟)・金属労協(IMF=JC)といった協調的な勢力が総評に代わって台頭してくることをも背景として、日経連は、労働者の要求を労務管理体制に組み込むことで経営環境の変化に対応していくという路線を形成していくことになる。かかる路線の結果として生まれたのが、年功賃金の完全な廃棄ではなくその修正を内容に含む「能力主義管理」であった。こうした意味で「能力主義管理」は労使協調主義の具体化であり、それを通じて経営者はようやく労働者を企業秩序に統合しえたのである。
 以上のような歴史分析をふまえ、洪氏によって提示された結論は次の3点である。第一に、経営者側の労使協調主義は対決路線と協調路線の相互作用による経営権の確立を基盤に形成されたものであったということ、第二に、労使協調主義の具現としての「能力主義管理」は、経営環境の変化を触媒として登場したものであったこと、そして第三に、労使協調主義の登場に至る経営権の確立過程は、対立から協調への転換の基盤になったということである。
 以上、洪氏の報告の内容を簡単に振り返ってみたが、豊富かつ緻密な歴史実証に支えられたたいへん力のこもった研究であり、経営側の理念や言説を軸に日本的労使関係・能力主義管理の成立過程を追うという視角はユニークで興味深いものである。また洪氏は韓国人であるが、報告から判断する限り日本語の能力も相当に高く、日本人研究者と比較してもほとんど遜色のないものであって、そうした点からも同氏の力量や真摯さがうかがえる。
 ただ、報告後の討論の中では、能力主義管理は当然に対抗的労働運動勢力の排除をともなうものであり、それを「労使協調」という言葉で表現することが妥当なのかといった点を中心に疑問・批判が提起された。また、筆者のみるところ、本論の歴史分析と結論との間に若干の乖離も感じられる。
 こうしたいくつかの問題点は存在するものの、洪氏の研究が大きな可能性を有していることは疑いない。今後の展開が大いに期待される。

(2)倉田隆太郎氏報告「地方都市のフリーター――浜松におけるフリーターの意識」について(横浜国立大学 小川慎一)

 近年、若年層の失業率や離職率の上昇、新規学卒者の就職内定率の低下が著しい。そうしたなか、正社員としてではなく、パートやアルバイトとして働く若年層が増加している。このいわゆるフリーターの意識を明らかにしようとしたのが、本報告の目的である。
 フリーターについての既存調査・研究の多くが大都市圏のそれを対象としてきた。倉田氏による報告は、既存の調査・研究では十分に採り上げてこられたとは言いがたい、地方都市のフリーターを研究対象としている。その点はまず評価されるべきだろう。ちなみに氏はフリーターの語を『平成12年版労働白書』の定義、すなわち「男性の場合は、『35歳未満でアルバイトとパートとして働いているもの』、女性については『35歳未満の未婚女性でアルバイト、パートとして働いているもの』」の意味で用いている。
調査対象は静岡県浜松市在住のフリーター(男性10人、女性12人、計22人)および、フリーターを雇用する事業所(23事業所)の担当者である。調査方法はインタビュー調査である。
事業所の担当者には、雇用しているアルバイトの人数、彼らへの教育方法、一般のフリーターの印象、彼らの職場における評価や扱いを尋ねている。フリーターが面接にきたときの担当者の印象は、「歓迎」5人、「人によるが問題なし」14人、「あまり雇わない」4人、である。
フリーターには、現在関心のあること、フリーターのメリット/デメリット、将来見通しといった点を尋ねている。また既存調査(労働省および日本労働研究機構)で用いられた類型にしたがって、フリーターの意識を分類している。順に、「自己実現型」10人、「将来不安型」3人、「将来不安型(非自発)」1人、「フリーター継続型」2人、「家庭に入る」6人(以上労働省の類型、計22人)、「モラトリアム型」10人、「やむを得ず型」11人、「夢追求型」1人(以上日本労働研究機構の類型、計22人)、である。
 また、かれらの就業形態や就業業種、職業の履歴も紹介された。本例会の参加者のなかには、正社員からフリーターになる若者も存在することに驚きを感じる者もいた。
 くわえて氏は、フリーターの地域間移動と就業意識との関係の検証を試みている。ただ本例会の参加者からは、それを検証することの意義について疑問が出された。フリーターである者はそうでない者に比べ地域間移動をする割合が大きい、あるいは地域間移動をする者はそうでない者に比べフリーターになる割合が大きい、といったことを確認することは難しいのではないか、といった内容である。
 周知のように浜松市は、外国人労働者の多く働く土地である。地域労働市場における日本人若年層と外国人労働者との間の競合についての検討を、今後の課題として指摘した参加者もいた。
 ともかくももっとも大切な今後の課題は、苦労して得られた数少ないインフォーマントから、さらに深い情報をどう聞き出すかという点である。氏がもっとも痛感していたことであるが、フリーターの移ろいやすい就業意識、さまざまな矛盾を内包した就業意識の実態をどう描き出すか。フリーターの現状を知るというだけでなく、インタビュー調査の難しさも改めて思い知らされる報告であった。


III 第14回大会報告


シンポジウム「階層構造の変動と『周辺労働』の動向」について
一橋大学大学院 中村広伸
第一報告
「労働力輸出機構の変容からアプローチする周辺部労働市場の変化−国内労働力市場の変化は海外の労働力貯水池にどのような影響をもたらすのか」丹野清人(東京都立大)

 丹野氏は日系ブラジル人を対象として、日本の労働市場の変化と制度的に確立された日系人労働力を送り出すシステム(労働力輸出機構)の変化がどのように連動しているのかについて報告した。
 まず丹野氏は、豊田市をフィールドとした実証研究を通じて、現在の外国人労働者の位置づけについて、以下のように捉えている(詳しくは丹野「グローバリゼーション下の産業再編と地域労働市場」『大原社会問題研究所雑誌』no.528、2002を参照)。つまりバブル崩壊以前においては、日本の労働市場は逼迫しており、外国人労働力は絶対的に必要な労働力であった。しかしバブル崩壊後は、外国人労働力は選択肢の一部となり、実際多くの外国人労働者が女性や高齢者に置き換えられた。バブル崩壊後の外国人労働力は、ほかの労働力を集めても未だ集まらない部分を担う労働力となったのである。
 こうした日本における労働市場の変化に対するラテンアメリカでの労働力輸出機構の変化は、市場型からネットワーク型への転換として特徴づけられる。つまり市場としての労働力輸出機構においては、特定の関係性等に依拠することなく、日系のカテゴリーに入る人であれば誰でも渡る可能性があった。これに対しネットワークとしての労働力機構においては、日本の企業側の要求が厳しくなったため(男か女か、日本語能力のある/なし、ひらがなが書けるか等)、誰でも日本に渡れるわけではなくなった。企業は口コミといったネットワークを利用して労働力を獲得するようになったのである。
 最後にまとめとして、丹野氏はここ10年間で貧困の再生産が生じていると述べる。つまり日系人労働者は日本とブラジル(ここでも学歴社会化が進展してきている)を往復することによって、出稼ぎ第二世代は親世代と比較して学力が低下しており、結局業務請負業にしか参入できない労働力となる。このような形で日系人は日本の周辺部労働力として、女性や高齢者労働力と競合する形でしか生きていけないのである。

第二報告:「派遣労働について」脇田滋(龍谷大学)

 脇田氏は労働法専門家として労働者派遣法の抱える問題点を指摘し、また派遣労働者を対象とした相談活動(派遣110番:http://www.asahi-net.or.jp/~RB1S-WKT)を通じて、派遣労働者の実態を、落ち葉の下で苦しむ労働者の悩みを落ち葉をめくるような形で「虫」瞰的な認識を報告している。
 まず脇田氏は1985年派遣法の真の意図として以下の三点を挙げている。第一に、当時蔓延していた業務請負の形式を採った労働者供給事業を適法化した。第二に、男女雇用機会均等法と抱き合わせることによって、均等法が求める男女平等を、雇用形態の差別という形にすり替える。第三に、ゼネラリストではない特定の知識・技能に限られた労働者を、内部労働市場には入れずに、かつ外部において職種別に組織化させないように、中間労働市場つまり派遣業界に組織させる、である。脇田氏は17年を経てこの意図が貫徹したと捉えている。
 この派遣法は73年ドイツ派遣法をモデルにしたと言われているが、日本の派遣法は、以下の点でヨーロッパ諸国のそれと大きく異なっていた。第一に、ヨーロッパ諸国の派遣労働はテンポラリー・ワークという位置づけであり、三ヶ月間の雇用しか認めておらず、それ以降は正社員にしなければならない。これに対し、日本においてはテンポラリー・ワーク(一時的労働)をディスパッチド・ワーク(派遣労働)にすり替え、派遣先において一定期間経過したならば直庸するといった点が、現在においても明確に位置づけられていない。第二に、ヨーロッパ諸国では派遣労働者と派遣先の従業員とは同一待遇であることが前提となっているが、85年派遣法においては、こうした前提がまったく組み込まれていなかった。また1996年の労働者派遣法改定、97年の職業安定法施行規則改定および、99年の労働者派遣法改定といった、派遣労働をめぐる一連の法規制の流れの大きな特徴として、それらが適正かどうかといったチェックなしに一貫して緩和されていることにある、と脇田氏は捉えている。
 次に脇田氏は、労働者派遣の法律関係の基本構造の大きな特徴として、雇用関係(労働者−派遣元)と使用関係(労働者−派遣先)の分離をあげている。つまり労働力の提供によって最も利益を得る派遣先が、使用者としての責任の大部分を派遣元に追いやっているのである。多くの事例の紹介を通じて、こうした基本構造化における労働者派遣法運用および派遣労働者の悲惨な現実が詳細に報告された。派遣業界が派遣先に宣伝している派遣導入のメリットは以下の三点である。第一に、雇用責任の負担がない。第二に、雇用の調整弁にできる。この2点によって、派遣先は正社員に対して行使することが困難な解雇を「痛みなく」遂行できる。そして第三に、人件費の削減である。また労働組合は企業別の正社員組合であるため、同じ職場で働く派遣労働者の労働条件等に対して、労働組合が介入するといったことは非常に少ない。脇田氏は「登録型」女性派遣社員を「大企業内において中小企業並みの条件で働いて解雇も(容易に)できて、団結権を利用できない労働者」と位置づけている。世界中で、日本ほど派遣労働者が無権利なまま放置されている国は他にない、と脇田氏は締めくくっている。

第三報告:「パートタイム労働者の組織化と均等処遇の行方」龍井葉二(連合・総合労働局長)

 龍井氏は、労働組合の立場から、階層構造の変化に対する基本認識および今後の組織化に関する展望について報告した。
 龍井氏は、最近の変化に対する基本的認識について、以下のように捉えている。かつて製造業が中心であった時期の階層構造は、コアである大企業本工と、臨時工や下請工といった周辺労働者がいるという構図であった。この構図は経済のサービス化・情報化のもとで大きく変化し、男性の長時間労働・家庭不在と、女性のパート労働という構図に変わった。この構図自体もまた、近年の大量失業・超長時間労働・非典型雇用の急増の同時進行によって変化した。つまり、これまで典型とされた男性正社員の雇用安定神話が崩れ、かつて周辺と位置づけられたパートをはじめとする非典型雇用労働者が基幹的業務に配置されつつある(「周辺」の「コア」への転化)。こうして、かつての正規/非正規という二分法的な階層構造から、より多重化・多極化・国際化した階層構造へと変化し、対等交渉・均等処遇という原則が適用されない労働者がより増大した。この背景として、龍井氏は単なるコスト削減のみならず、「経営戦略」と呼ぶにはあまりにずさんすぎる金融主導の短期利益最優先の経営方針をあげている。
 労働運動におけるパート労働者の位置づけについて、龍井氏は以下のように捉えている。これまでの日本における労働組合組織は、かつての雇用システムを反映して企業別組合が主流であり、「周辺」労働者の大多数は職種別組合に組織されることなく「未組織」であった。しかしパート労働者の「コア」化に伴い、職場における正社員比率が低下し、職場における時間外協定締結にも支障が生まれ、こうした職場においてパート労働者の組織化が進んでいる。パート労働者を対象とした相談活動の経験を通じて龍井氏は、パート労働者が求めているのものが、単なる労働条件の処遇改善にとどまらない、より切実な「一人前に扱われない」ことに対する不満から生じている改善要求であると捉えている。また地域ユニオン型の個人加盟組織を通じたパート労働者の組織化も同時に進められるようになった。
 こうした状況の中でこれからの賃金決定に求められるのは「底上げ」の重視と「均等処遇」ルールの徹底であると龍井氏は捉える。日本型雇用システムの見直しのもとでの同一価値労働=同一労働条件ルールという、日本型の仕事給システムの確立への挑戦を連合は行っている。

第四報告:「ジェンダーのレンズからみる現在の『周辺労働』問題」久場嬉子(龍谷大学経済学部)

 久場氏は、なぜ女性労働者の半数が非正規労働者なのかといった問題を解き明かすには、ジェンダーの視点を組み込む必要があると問題提起している。久場氏は、労働を単に「市場」労働のみならず「再生産」労働(1人間の再生産、2労働力の再生産、3社会的諸関係の再生産4国民の再生産が含まれる)をも組み込んだ形で捉えている。こうして久場氏は市場と家族という二つの領域にまたがる形で労働の問題を捉え、そこにジェンダーという階層構造が生じていると捉えている。
 1970年代以降の雇用の女性化は、二極分解を引き起こしつつも多くの女性を周辺労働の側に追いやる形で進展している。この原因として、久場氏は根強い家父長制(久場氏はこれを市場外/非市場の再生産労働に対する男性の支配権と捉えている)と女性の労働力商品化との強力な結合をあげている。この点を久場氏は、二つの均等法(1985年と1997年)の成立過程を見ることを通じて示した。
 さらに久場氏はサッセンの研究を紹介しつつ、自身が注目している二つの問題提起を行った。第一に、サービス経済化=産業構造の転換と、雇用の女性化・周辺労働力化との関連を捉える必要がある。第二に、再生産労働の社会化の進展とそれに伴う福祉レジームの変容を見ていく必要がある。その際久場氏は、オランダ・モデルが今後の日本の方向性を探る上で示唆的であるとして紹介している。

 午後の部は4名のコメンテーターからのコメントから始まった。まず丹野氏の報告に対して、山田信行会員(駒沢大学)がコメントした。山田氏は丹野氏の報告から、日本の労働市場における日系ブラジル人が必ずしも最底辺に位置づけられているわけではないこと、受け入れ先(日本)と送り出し側(ブラジル)が密接にリンクしていることを改めて確認できたことを述べた上で、丹野氏に以下の三点を質問した。第一に、企業が日系ブラジル人を雇用する/しないことを決定する差異に、技能はどれだけ関わっているか。第二に、丹野氏のいう「市場」と「ネットワーク」の概念の定義について。「市場としての労働力輸出機構」の中にすでに「ネットワーク」的な要素が含まれているのではないのか。第三に、日系ブラジル人の世界的/日本における位置づけについて。特に非合法である不法就労労働者との比較や、類型論への展望はあるか、である。
 次に西野史子会員(一橋大学大学院)より、脇田報告へのコメントがなされた。西野氏は、脇田氏が1985年派遣法の根本的な間違いを改めて指摘したと述べつつ、以下の二点を質問した。第一に、法が存在しても違法が常態化するような中で、「規制」とはどうあるべきなのか。第二に、将来の失業につながる派遣労働者の技能形成の機会の欠如、スキル欠如の蓄積の問題にどう捉えるか、である。
 続いて三山雅子会員(同志社大学)は、龍井報告について、特に均等処遇の問題を中心にコメントした。まず三山氏は、龍井氏(連合)が女性の働き方の問題を育児休業の問題と捉えていた一昔前の認識を乗り越え、生産/再生産という二つの領域にまたがる問題であり、男性正社員のワーク=ライフスタイルのネガの問題として捉えていることを評価している。その上で三山氏は、今後パートタイム労働者を組織していくには、均等処遇の問題が最も重要であると指摘した。そこで三山氏は、現在連合が取り組んでいる日本型仕事給システムについて第一に、このベースとなる再生産労働と市場労働が調和する職務というのがどう確立されうるのか、第二に、仕事給を考える際の仕事の「格差付け」についてどう考えているのか、第三に、「格付け」の低いとされてきた定型的な仕事をどう価値づけていくかについて質問した。
 最後に渡辺雅男会員(一橋大学)は、久場報告および四報告についてコメントした。まず四報告全体について渡辺氏は第一に、階層構造の変動のヘゲモニーは誰が握っているかについて、丹野報告と脇田報告が具体的に示していた(労働者の側にイニシアティヴはない)、第二に、変動の新しいモデルをどう再構築していくかについて、龍井報告と久場報告は意識的に取りあげ問題提起した、とまとめている。続いて久場報告に対して渡辺氏は、主として再生産労働の視点をどう具体化・現実化した形で組み込むのか、について質問した。

 この四名のコメントに対して、四報告者は以下のようにリプライした。まず丹野氏は第二、第三の質問に関連して、日本の特徴(とりわけ日系人の場合)の一つとして、いわゆる当事者たちのネットワークが機能しにくい条件下にあることを挙げている。なぜなら、彼らは業務請負業という間接雇用の労働市場にしか参入できず、そこに参入するには特定の媒介組織を必要とするからである。また第一の質問について、外国人が雇用されるかどうかという点と技能は非常に関連しており、企業はコスト+生産性を勘案して外国人が雇用するかどうか決定すると丹野氏は述べている。第二の点については、山田氏の指摘の通り「市場」の中に「ネットワーク」はあるのだが、逆のパターン、つまり「ネットワーク」の中に「市場」はない、ここに大きな違いがあると丹野氏は答えている。
 脇田氏は、第一の点に対して、派遣労働者を地域的に組織した大阪の民放労連近畿地連の事例を取り上げ、派遣労働の問題を摘発するにはこうした労働組合、そして労働行政機関の力がなくてはならないと述べている。また第二の技能形成の点について、脇田氏は細切れの就労を促進する「登録型」の派遣が諸悪の根元であり禁止すべきだと主張した。最後に雇用保険と「登録型」の不適合について指摘し、失業後の生活保障や職業訓練と結びついた雇用保険システムの必要性について述べた。
 龍井氏は、今連合はワーク・シェアリングを提起することによって、正規労働者・パート・失業者をひっくるめて時間および雇用を組み換えることを目指しており、秋から春闘にかけてはサービス残業問題を目玉として運動を展開していくと述べた。また均等処遇問題をめぐるジレンマ−均等処遇を目指す=「典型労働者並み」を目指すことなのか?−について龍井氏は、現存する制度が典型労働者をベースとしているため、職場の中で均等処遇を目指すには、さしあたり今「一人前とされる人」である正社員像を手がかりにせざるを得ないと述べた。また生活面での分業の組み替えについて龍井氏は、再生産労働を世帯に全部押しつけるのではなく、また「社会化」(ペイしてアウト・ソーシングする)でもない、「協同化」(NPO等を含めたコミュニティ作り)の方向を押し進めていきたいと述べている。
 久場氏は、家父長制とは「再生産をめぐる男性支配」だと再度強調した上で、ある特定の家父長制制度といったものがあるのではなく、雇用制度や社会福祉制度といった具体的な制度あるいは慣行に組み込まれていると主張した。また久場氏は、家庭や地域での再生産労働(アンペイド・ワーク)にはコストが発生しており、現在このコストを市場、企業、政府、家計の間でどのように担っていくのかということをめぐり、様々な展開が見られると述べた。
 この後フロアを含めての質疑応答がなされた。個々の報告者に対する質問が多く、全体的なまとめの方向に向かうような議論展開ではなかったが、個々の報告の認識をさらに掘り下げていくような形での興味深い議論がなされた。


IV 各種連絡

1.『労働社会学研究』第5号の投稿募集について

編集委員会では第5号への投稿論文を募集いたします。投稿をご希望される方は下記
の事項を記載した投稿希望書(書式自由,以下の記載事項を明記のこと)を清山玲編
集委員長宛まで,郵送かファックスのどちらかでご送付下さい。会員皆様方には,実
態調査に基づく論文・研究ノートをふるってお寄せいただくようお願い申し上げます。
なお,投稿および投稿申込みにあたっては『労働社会学研究』既刊号に掲載されてい
る投稿規定および確認事項(特に,現物購入に関する箇所)を熟読されるようお願い
いたします。まだ投稿申請ゼロなので是非ご投稿応募下さい。

ホームページでも同様の情報を公開しています。
http://www.jals.jp/journal/boshu.html

刊行スケジュール
投稿希望書締切・・・・・2003年3月15日(当日消印有効)
原稿締切・・・・・・・・2003年6月末日(当日消印有効)
発行予定・・・・・・・・2003年12月

投稿希望書送付先
茨城大学人文学部社会科学科
清山 玲 宛

投稿希望書送付先ファックス
029−228−8199
必ず「 茨城大学人文学部 清山 玲 宛」とファックスに明記してください。

投稿希望書記載事項
  (1) 氏名
  (2) 連絡先(〒・住所・電話番号・FAX番号・E-mailアドレス)
  (3) 所属機関・職名(大学院生の場合,修士課程・博士課程,学年など)
  (4) 論文・研究ノートの区分
  (5) 論文の題目・予定枚数
  (6) 論文の概略
  (7) 使用ワープロ類の機種とそのソフトの名称
  (8) その他,編集委員会への要望

なお,原稿につきましては投稿規定により45,000字を上限としておりますが,掲載論文が多くなった場合には,予算の制約上,40,000字以内に圧縮していただく場合がございます。予めご了承ください。

2.次回幹事会および3月定例研究会のご案内

日時:2003年3月29日(土)午後0時30分から幹事会。午後2時から定例研究会
場所:専修大学神田校舎1号館12階社会科学研究所

定例研究会の報告者の報告テーマ:

小村由香氏(早稲田大学文学研究科)
「感情労働と自己:サービス労働研究のための一考察」

黄 咏嵐 氏(一橋大学大学院博士課程)
「中国民営企業の労使関係と人事労務管理」

3.新入会員紹介

1月の幹事会で以下の2名の方の入会が承認されました(敬称略)。

・略
以上