日本労働社会学会『通信』

vol.XIII, no. 3(2002年4月)

日本労働社会学会事務局

一橋大学社会学研究科    林大樹
(学会ホームページ)http://www.jals.jp
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(銀行口座)あさひ銀行横須賀支店 普通 1907291
「日本労働社会学会 大黒聰」
* ご注意! 銀行口座は2001年10月22日より変更しております。

 学会通信2002年第3号をお送りします。郵送希望の会員には、近日中にお送りします。
 事務局では現在、162名の会員(数名の入会予定者を含む)のアドレスを把握しており、これらの会員宛に本通信をメール送信しております。何か不都合がありましたら、事務局までご連絡下さい。


I. 第2回(2002年度)幹事会報告

 3月16日(土)午後0時30分より2時まで、早稲田大学本部キャンパス14号館510教室にて、2002年度第2回幹事会が開催された。出席者は10名(大黒聰、河西宏祐、北島滋、中村眞人、兵頭淳史、吉田誠、山田信行、渡辺雅男)であった。
 議題は以下の通り。
  1. 年報編集委員会
    次号の編集方針についての協議。「職人芸の伝承」の北海道版に関する協議。次号投稿論文の投稿状況の報告。
  2. 「労働社会学研究」編集委員会
    次号における投稿論文の投稿状況の報告。
  3. 研究活動委員会
    2002年大会のシンポジウム案、人選についての検討状況に関する報告。また、2002年大会の自由報告の形式について、活発な議論が可能となることから、分科会形式ではなく昨年度同様一つの会場で開催することとした。
  4. 会計
     2002年度予算に対する3月15日現在の実績の報告。資産形態の報告。ジャーナル・カンパ・リストの報告。年報基金の報告。年報・ジャーナル販売状況の報告。また、東信堂とのジャーナルに関する契約について、第2号以来、400部購入、40万円支払という契約であることが確認された旨の報告があった。
  5. 事務局関係
    (1) 退会者―略。
    (2) 入会者―略。
  6. 次期大会
    大会担当の宇都宮大学・北島副代表幹事より、工場見学の見学先候補について紹介があった。引き続き検討することとした。
  7. その他
    (1)日本学術会議登録更新に関する連絡
    (2)関西労働社会学研究会(仮称)
     関西における労働社会学研究会(仮称)の発足が紹介された。各地で研究会が発足することを歓迎し、大いに活動されたいとの声が多数あげられた。研究会は年2回開催の予定。日程の告知や、定例会報告について、通信、ジャーナルに掲載することとした。

II.秋の大会における自由論題報告の申込みについて

 秋の大会で自由論題報告を希望される方にお知らせいたします。報告ご希望の方はそのご意向を研究活動委員会までお知らせください。
申し込み先は、
一橋大学社会学研究科 渡辺雅男研究室
日本労働社会学会研究活動委員会
申し込み締め切りは、7月20日(土)(必着)
なお、報告要旨は、8月中旬を目処に開催校にお送りいただくことになりますが、詳細は追ってお知らせいたします。

III. 3月定例研究会報告

1.渡辺めぐみ氏報告「家族農業経営におけるジェンダー分析の試み―専業農家女性 へのインタビューから」の感想                            

恒川真澄(東京女子大学大学院)

 家族農業経営における女性労働について、当の女性はどのような意味づけを行っているのかを明らかにすること。これが本報告の主たる関心の対象である。渡辺氏は、女性の農業労働についての新たな分析枠組みを提出するため、すでに近年の主要な研究について検討し報告を行っている(日本労働社会学会第13回大会)。従来の研究は、ジェンダーに関するイデオロギーという視点から、性別役割分業の編成原理を明らかにしてきた。これらの研究は巨視的には意味を持つものの、当の本人が農務に対して行う「評価」、あるいは意味づけという視点が欠落していた。フランスのC. Delphyは、このような当事者の意味づけという視点から研究を行っている。Delphyの分析視点から示唆を得た渡辺氏は、新たな分析枠組み構築のため、経験的研究に着手する。その第一の成果が本報告である。
 Delphyは、ある労働の軽重が、作業強度ではなく家族経営内部の地位によって決定されると述べている。この知見をもとに、報告者は、「地位」を世代と性別であらわされる続柄と捉え、とくに「女性向き」と意味づけられた労働がどのようなものかを明らかにするため、女性農業従事者に対して半構造的なインタビューを行った。当事者の語りのみを分析対象としたことで、次のような知見を得ることに成功している。女性向きの「細かい」「デリケート」と言われる仕事は、状況に応じた細心の注意を必要とする仕事と、補助的・周辺的な仕事の二つを意味する。労働強度で言えば軽作業の内に含まれるこれらの作業は、実際非常に気忙しく、自分のペースで仕事を進めることはできない。逆に、「女性向き」の仕事というイメージを作りだすことで、重労働を隠蔽し過小評価する効果が指摘できる。こうした労働のジェンダー化は、一面では当事者の戦略的選択ともいえる。選択の契機として農務スキル獲得の阻害要因を分類すると、1.出産・育児、2.経営方針の決定の不均等、3.研修の機会、の3類型に分けられる。このような阻害要因があるにもかかわらず、日々の作業に「やりがい」を見い出すため、女性たちは自らの担う農務に対して積極的意味づけを行っていると推察されるのである。
 フロアからは、「いえ」の存続について当事者はどのように捉えているのか、また、土地の管理処分権は女性だけの名義にすることはできるのか、などの質問がでた。また、裁量権を得るため女性自身が労働のジェンダー化を戦略的に行っているという本報告に対し、それが経営に直接関わる上位の裁量権であるかどうかが問われた。
 ジェンダー化を女性自身による意味づけから捉え、その背景を農務スキル獲得過程に求める分析枠組みは示唆に富むものであった。しかし、スキルというからには、具体的な内容や獲得過程についての詳細な言及が必要ではないだろうか。製造業と異なり、農業は家単位の経営であるため、スキルのリスト化は困難かもしれない。現在、作物を限定して調査中とのことなので、今後の成果報告を期待したい。

2.松尾孝一氏報告「地方自治体職員のキャリア管理と労働組合の対応」の感想                        

鈴木誠(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会)

 松尾氏は、K市における1990年大卒事務系入庁者94人中、職員録により1999年時点で所属が判明している80人の性別、出身校、及び90,92,95,97,99年時点での勤務部署、経験職務、職位を丹念に調査し、そのキャリア管理の特徴を次のように指摘している。すなわち、(1)一律の年次管理という性格は薄い、(2)早い選抜、早い昇進が存在する、(3)昇進スピードを規定するものとして、学校歴(出身校)も無視できないが、それ以上に配属部門や職務が重要である、(4)官房系の昇進率が高いが、事務局の庶務担当課もそれに次ぐ昇進率であり、官房系からの昇進者もその前は事務局の庶務担当課在籍者が多い、(5)民間企業との比較においてキャリア展開が早期から多様化するも、ゼネラリストコースとスペシャリストコースへの分岐という意味での複線的キャリアは初期キャリアの段階では検出しがたい(法律や情報処理等の専門能力をもった者を除く)、(6)ファーストトラックは管理的職務を中心とした狭めのキャリアである、(7)ファーストトラックや専門的能力保有者以外のその他大勢は99年の段階においてゼネラリスト的キャリアであるが、その中でも細かく差がついている、ということである。
 加えて、労使間の相互作用の帰結である人事システムにおいて労働組合の行動様式を分析することが不可欠であるという方法論上の問題意識から、聞き取り調査、及び議案書等の分析を通じてK市職員労働組合の対応についても考察している。K市職員労働組合の主流派は、能力主義的選抜を容認し、組合員の異動や昇任試験受験にも肯定的であるとのことであり、他方、非主流派は本庁勤務者の昇進管理には無力で、組合員の異動や昇任試験受験には否定的であるも本庁大卒者層への影響力が小さいことから、上記キャリア管理を支える結果となっていると指摘している。
 本報告は、その対象の重要性にも関わらず、これまで研究の蓄積が浅い地方自治体職員に焦点を当てたものである。学校歴等の入手困難なデータを駆使している点も評価に値すると言えよう。しかしながら、フロアから、ファーストトラックの存在を主張するにあたって実証の精度がやや低いこと、松尾氏の主張するほど競争が激しいとは断言できないこと、労使関係論的な分析がやや表面的なものに終始していること等のコメントが出された。松尾氏の研究の展開にとって有益なコメントであると思われる。今後更なる探究を期待してやまない。

IV. 幹事会および3月定例研究会のご案内

日時:5月18日(土)午後0時30分から幹事会。午後2時から定例研究会
場所:早稲田大学本部キャンパス・14号館803会議室

定例研究会報告者と報告テーマは下記の通りです。
  1. 武居秀樹(政治経済研究所)
    美濃部都政崩壊期における都労連内部の路線の分岐
        −地方公務員労働運動の転換と後退の起源
  2. 鈴木誠(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会)
      施設介護職の能力開発
なお、7月以降の幹事会の開催予定は、7月27日(土)、9月28日(土)となっております。