日本労働社会学会『通信』

vol.XI, no.2(2000年4月)

日本労働社会学会事務局

群馬大学医学部
       保健学科地域看護・看護管理学講座(林千冬)


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 新年度が始まり、お忙しい毎日と存じます。『通信』第2号をお届けいたします。

近日中に、2つの研究会がありますので、ご参加下さい。

 

 

T.第2回研究会報告

 

 3月18日(土)14:00〜17:30、早稲田大学人間総合研究別室において、第2回研究会が開催されました。その模様を報告いたします。

 

カワムラ・リリ・カツコ氏 在日ブラジル人労働者の文化的生き残りの戦略」について

                        村尾裕美子(お茶の水大学大学 院)

 

 カワムラ氏の報告は、文化や文化的戦略という観点から在日ブラジル人の歴史を説明し、その知見をもとに在日ブラジル人の文化に関し今後重要となると思われる研究上の視点を提示するものである。以下、報告の内容を要約する。
 在日ブラジル人の10年ほどの歴史は二期に区分できる。第一期は80年代末/90年代はじめから90年代半ばまでである。この時期、来日したのは主に日本人・日系人(一・二世)で、日本人・日系人が営んでいた卸市場が閉鎖されたことや、インフレ経済下での中流階級(日系人の多くがこれに属する)の没落が来日の背景にあった。まずは様子見として男性が来日したが、それとともに日本文化とのズレからさまざまな問題が起こった。例えば、この時期の移住は「出稼ぎ」を目的としていたため、求人過剰な当時の日本の状況と相まって在日ブラジル人の企業間移動がさかんに行われ、問題となった。また、彼らはブラジルでは「日本人」という意識を持っていたのだが、来日してみると彼らの習慣や習俗は現代日本のそれとはタイムラグがあり、それも問題となった。さらに、在日ブラジル人たちが持つ家族や友人との連帯感の強さは、日本社会においては異質だったため、トラブルが生じた。買い物の仕方の違いも、警察沙汰になりかねない問題となった。
 上述のような文化的ギャップに対応するため、小中学校や自治体、在日ブラジル人のアソシエーションなどが主体となった施策もいくらかはあった。しかしそれは在日ブラジル人の「日本人化」を目指すものでしかなく、あまり彼らに受け入れられなかった。
 「日系人は働いてもよい」との法律成立を画期に、在日ブラジル人の歴史は第二期に入る。この法律の成立後、家族で働く者が増えたほか、日系人以外のブラジル人の来日も増大した。在日ブラジル人の間のバリエーションも増え、店のオーナーになる者も現れた。また、飲食物・衣服・旅行・銀行・教育・レジャー等々におけるブラジル人向けの財・サービスの市場の成立は、本国と日本との結びつきを一層密にした。
 このような状況の中で、在日ブラジル人のアソシエーションには問題解決のための実践的なものが増え、商売上の問題解決や子どもの暴力対策などのために活動を展開している。
 以上の歴史的検討を通じて、在日ブラジル人研究のための視点として今後重要なのは、第一に、「ブラジル人の日本移住は終わらないもの」ということである。現在の日本では、日本とブラジルとを結ぶ確たる基盤が存在しており、在日ブラジル人のネットワークが存在しているのだ。第二に、在日ブラジル人の多様性の増大である。そして第三に、在日ブラジル人の新しい戦略に着目することが重要である。これは、家族ぐるみでの生き残り戦略であり、自分の世界を、日本人も含み得るような「人とのネットワーク」の中で作ってゆくというものである。この戦略がつくられた背景には日本社会システムの閉鎖性があるわけだが、このような戦略のもとで、単なる日本への同化ではない、新たな在日ブラジル人の文化が創出されるのではないかと思われる。
 以上のような、ミクロな事例の積み重ねを通じて分析上の論点を抽出しようとする報告者の試みは大変興味深く、研究会では報告に対して、派遣会社のバックグラウンド、新しい戦略の詳しい内容、エスニック・ビジネスのオーナーとなる要件についてなど、幅広い問題関心からの質問がなされた。

 

I.『年報』編集委員会主催「フィールド調査の手法について語る会」研究会のお知らせ

開催場所  : 専修大学神田校舎 12F 社会科学研究所
          (JR水道橋駅下車、徒歩10分)
期日/時間 : 5月6日(土) 13時〜、
5月7日(日) 10時〜12時
発表者   : 鎌田とし子会員、河西宏祐会員、柴田弘捷会員、田中直樹会員、北島滋会員
なお時間的関係もあり人数も限定されますが、発表を希望する方は事前に秋元先生にご連絡のこと。
※参加希望者は宿泊施設を各自でおとりください。
秋元先生連絡先 略

 

II.第3回定例研究会のお知らせ

報告者:・小池隆生(専修大学経済学研究科大学院)
「アメリカにおける貧困問題と対応策の断面―クリントン福祉改革の到達―」
日 時:5月20日(土)14:00〜18:00
会 場:早稲田大学人間総合研究センター別室
(本部・高田牧舎2階)裏面地図参照

 

 

III.第2回幹事会議事録

 2000年3月19日 (土)11:00〜12:30 早稲田大学人間総合研究センター別室 (高田牧舎2階)にて、第2回幹事会が開催された。
 出席者は、田中直樹、秋元樹、大黒聰、河西宏祐、北島滋、京谷栄二、土田俊幸、藤田栄史、山田信行、鷲谷徹、藤井史朗、以上11名。

議題

〔報告事項〕

  1. 『年報』編集委員会
     秋元編集委員長より第11号への論文投稿の申し込みが8本きていること、書評を7本依頼中であること等が報告された。また、「フィールド調査の手法について語る会」を5月6,7日に編集委員会主催で開催して、そのまとめを特集として掲載したい旨、報告され、了承された。
  2. 『労働社会学研究』編集委員会
     河西編集委員長より『労働社会学研究』第2号が4月中に発行されること、判型を>現在のB5版からA5版に変更すること、小谷幸編集委員から大槻奈美編集委員に交代したこと、投稿規定に「図表作成基準」を追加すること等が報告された。また、第2号掲載の研究例会報告の執筆者には10冊分 (15,000円) を買い取ってもらうこととなった。
  3. 「研究活動」委員会
    藤田幹事より次回定例研究会 (5月20日)の報告予定者について報告された。
  4. 会計
    大黒会計幹事より会費納入状況、年報・ジャーナル販売状況等が報告された。

〔審議事項〕

  1. 第12回年次大会とシンポジウムについて
    藤田会員より第12回年次大会(11月18・19日)のシンポジウムについての原案が報 告された。その内容は、雇用・働き方をめぐる90年代後半の変化を、1)経営側の変化 2)「男女共同参画社会」形成の視点から、3)ホワイトカラーの働き方の変化、4)パートタイマーや派遣労働などの働き方の多様化、から捉える方向で検討中であることが報告された。具体的な報告者の人選を早急に研究活動担当幹事の間でつめることとなった。
  2. シンポジウムの隔年開催再検討について
     田中代表幹事より、シンポジウムの隔年開催について、毎年開催して欲しいとの会員からの意見があるので、後日検討したい旨報告された。
  3. 会員異動について
    田中代表幹事より新入会員3名、退会者2名について報告され、了承された。
  4. 幹事会の開催時間について
     幹事会の開催時間は現行11時からであるが、午前中に各委員会の打ち合わせを行いたいとの意見が出され、次回より幹事会の開催時間を午後1時より、定例研究会を午後3時より行うこととなった。

 

 

IV.会員異動

(プライバシー保護のため住所等はWEB版では省略させていただいてます)

  1. 新入会
  2. 住所(所属)変更

 

 

 「フィールド調査の手法について語る会」研究会

日 時:3月18日(土)14:00〜18:00

開催場所  : 専修大学神田校舎 12F 社会科学研究所
        (JR水道橋駅下車、徒歩10分)
期日/時間 : 5月6日(土) 13時〜、
        5月7日(日) 10時〜12時
発表者 : 鎌田とし子会員、河西宏祐会員、柴田弘捷会員、田中直樹会員、北島滋会員

 

 

第3回定例研究会のお知らせ

報告者
小池隆生(専修大学経済学研究科大学院)
「アメリカにおける貧困問題と対応策の断面 ―クリントン福祉改革の到達―」

日 時:5月20日(土)15:00〜18:00

会場:早稲田大学高田牧舎2階人間総合研究センター別室
   

※定例により、研究会の前に第3回幹事会を開きます。幹事の方は下記の通りお集まり下さい。
日時:4月22日(土)13:00〜15:00(今回より開催時間が変わりました                         のでご注意下さい。)
会場:早稲田大学人間総合研究センター別室(本部・高田牧舎2階)地図参照。